暗闇の恋
虎ちゃんと深い関係になってから一週間が経った。
あれから虎ちゃんに会っていない。
仕事でちょっと忙しいと言って会ってくれない。
電話をかけても出てくれるのが少ない。
考えてみればあの日の次の日なんか様子が変だったような気もする。
じゃなんで?理由がわからない。
あるとすれば私が何かしちゃったのかもしれない。
無知だったから何をすればわからなかった。
だから幻滅したのかもしれない。
確信はないけど虎ちゃんは初めてじゃない気がした。
緊張も戸惑いも感じたけれど、私のそれとは次元が違うと思った。
虎ちゃんが気になって郁に連絡しなかった。
私の中で虎ちゃんがいっぱいになっていた。
正直郁の存在を忘れてた。
携帯をリビングに置いたまま自分の部屋に戻った。
少ししてから携帯を忘れたことに気付いて一階に下りようと部屋を出た時、携帯の着信音が鳴った。
「歩…電話よ。」
「はぁ〜い。」
一階に下りたときには電話は切れていた。
「誰だった?」
「八雲 郁って出てたけど…高校の友達?」
「えっうん…。」
咄嗟に嘘を言ってしまった。
「本当に?」
なんだろう…お母さんの雰囲気が、いつもと違う。
「なんで?」
「ううん、なんでもないけど…その八雲さんて男の子じゃないわよね?」
「えっなんで?」
「それだけでいいから、答えて。」
両腕を掴まれた。
なんでこんなに聞いてくるのか、わからない。
「お母さん…痛いよ…。」
掴まれた腕が痛い。
「いいから答えなさい!」
お母さんが怒鳴るなんて…。
勢い押されて答えた。
「そう。男の子。」
「その子は歩より年上?」
「うん。」
「4歳年上?」
「…うん。」
なんでお母さんが知ってるの?
なんで、そんなに当てるの?
「…まさかその子は耳が聞こえない?」
「…うん。」
意味がわからない。
「お母さん…知ってるの?郁の事?」
「まさかそんな…」
私の腕を掴んでる手が震え出した。
「お母さん!?どうしたの?なに?なんなの?」
「その子は歩の事知ってるの?あなたたちはどうゆう関係なの!?」
「お母さんが言ってる意味がわかんないよ!」
お母さんの息が上がってるのがわかる。
凄く興奮してるのが言葉と息遣いで伝わってくる。
「あなたたちはどうゆう関係なの?」
一つ溜息を付いたお母さんは冷静さを取り戻したように聞いてきた。
「それは…虎ちゃんと付き合う前に私が好きだった人なの…。」
「もう会わないで!」
「なんでそんな事言うの?ちゃんと説明してよ!」
お母さんは深い溜息を付いた。
「その子はお父さんが事故に遭った時轢いてしまった被害者の男の子よ。」
「まさかそんな…。」
突拍子もないことに笑ってしまう。
「間違いないわ…八雲 郁。忘れるわけないじゃない。あの人が死んでしまって歩も目が見えなくなって…被害者の男の子も耳が聞こえなくなった。何度も謝りに行ったの。歩が退院してからも、歩を連れて何度も謝りに行った。聞こえなくなったあの子の睨みつける目も一度も忘れたことがなかった…それから一年もしないうちに八雲さんは引越しして行ったの。ここに居れば思い出して辛くなるからって…。」
「お母さん…嘘だよね?」
聞いても信じられなくて、お母さんに聞くけど黙ったまま答えてくれない。
「じゃ私は郁が恨んでる人の娘ってこと??そんな…。」
「だからもう、会わないで欲しいの。なにかあってからじゃ歩も郁くんも辛い想いしかしないでしょ!!」
「ごめんなさい。でも、もう…遅いよ…。」
「歩?」
小声で言った言葉はお母さんに届かなかった。
「歩、今なんて言ったの?」
今度は私が深く深呼吸をした。
「もう遅いの。私…郁とキスしちゃったよ。」
そう言うと涙がこみ上げた。
お母さんがすぐさま私を抱きしめた。
「もう私たち恋しちゃってる…。お母さん…私どうしよう…。このままじゃ虎ちゃんも郁も傷付けちゃう。」
「そんな…歩…。」
お母さんが泣いてる…。
声が震えてる。
お母さんも、なんて言っていいのかわからないんだ。
その言葉を言ったまま黙ってしまった。
少しして私が落ち着くまで待ってたように、お母さんが話し出した。
「歩はどうしたいの?」
「わからない…。虎ちゃんも大事だし、郁も好きなの。」
「そっか…二人の間で迷ってるのね…」
「うん…。」
「郁くんとキスしたって言ったけど…じゃ体の関係を持ったのは虎ちゃんなの?」
驚いて顔を上げた。
どうして知ってるのか不思議だった。
まさか虎ちゃんが言った?
いや、そんなことあるわけないし…。
考えてると、お母さんが話した。
「そんな不思議そうな顔して…自分の産んだ子のこと見れば変わったことぐらいわかるわよ!仕草とか態度とか雰囲気が違うのよ。あぁ女になったなって…まぁ女の勘みたいなもんよ。」
「そうなの?」
「じゃ郁くんとはそこまでなのね…お母さんの意見言っていい?」
「うん…。」
「お母さんはさっきも言った通り、もう会わないで欲しい。でも歩がもし郁くんを選んだなら、その時は応援する。」
「お母さん…。」
「でもその時はちゃんと彼に言いなさい。それでもいいと、歩が好きだと言ってくれたら、お母さんは応援する。」
「うん…わかった。」
「まぁゆっくり考えなさい。ちなみに今はどっちが好きなの?」
「虎ちゃん…。」
「そう…。」
「お母さんはどっちにしたらいいと思う?」
「う〜ん。どっちでもないわ。決めるのは歩自身のココでしょ!?」
そう言って私の胸に手を当てた。
「うん…。」
「どっちの答えを選んでも、どっちかは傷付けてしまうわ。勿論、歩自身も。でもそれが恋よ。」
そう言ったお母さんの声は女の人の声をしていた。
「わかった。自分で答え選ぶ。」
「よし。じゃ今夜は何食べたい?今から買い物行くから。」
「じゃハンバーグがいい。」
わかったと言って出かけて行った。
お母さんに言われた言葉を思い返す。
それが恋…これが恋。だとしたら凄く残酷なものかもしれない。
今の状況は自分で招いた事だけど、なんで好きだと思える人が同時に現れるのだろう。
しかもその相手の一人はお父さんが起こした事故の被害者。
それが本当かどうかも確かめなきゃ…もしかしたら同姓同名かもしれない。
でもなんで郁は気付かなかったんだろう?
気付いてるけど知らないふり?
あっそっか…今は井伊垣だからだ…。
お母さんはお父さんが死んでから一周忌を迎えた後で旧姓に戻したんだった。
じゃ旧姓を言えば気付くかもしれない。
でも今は虎ちゃんが避けてる理由が知りたい。
そう思ってたけど、私の思い過ごしだったのか仕事が落ち着いたと言っていつもと変わらない日常が戻ってきた。
ずっと郁の事は気になっていたけれど私は虎ちゃんにハマっていた。
初めての経験をして愛が生まれたのか虎ちゃんのそばにいたくて仕方がなかった。
夏休みの間、殆ど虎ちゃんの家に入り浸った。
勉強するのも食事も寝るのも…。
自分の家で過ごすより多くの時間を虎ちゃんの家で過ごした。
あの日から何度も虎ちゃんと抱き合った。
そのたびに満たされる。
愛し愛されてる喜びに満たされる。
正直、郁の存在は私の中から姿を消していた。
どうせ郁には、まどかさんが居る。
そう思っていた。
夏休みの最後の日、郁にメールをした。
見えないけれどボタン音でメールはできる。
《明日始業式の後、会いたい》と。
返事を貰っても確認ができないけれど、時間と待ち合わせ場所をメールした。
30分経っても来ない場合帰りますと付け足した。
久しぶりに会えるのかと思うと勝手にも心が躍った。
明日、虎ちゃんは仕事で朝から地方に行くと行っていたから見られる心配はない。
次の日待ち合わせ場所に私より先に行くは待っていて、私が着くとすぐに肩を叩いて来てくれた。
その後私たちはカフェでお茶をした。
【この後僕の家に来ない?】
郁はまっすぐに誘って来た。
【歩と抱き合いたいんだ。】
間髪入れず文字を連ねて行く。
好きではいるけど、虎ちゃんが占領してる。
うまく言えないけど、どちらも好きだけど、どちらとも出来ない。
用事があるからと夕方には帰った。
聞こうと思ってた事は何一つ聞けなかった。
事故の事…聞きたかったのに…。
夕方には帰ると言っていたのに虎ちゃんと連絡がつかなかった。
帰りに家に寄ったけど居なかった。
自宅に着いてもう一度虎ちゃんに電話したけれど、留守番電話のメッセージが流れた。
待ってるから連絡して欲しいとメッセージを入れて電話を切った。
その晩、酔った虎ちゃんからの電話で呼び出され会うまでは知らなかった。
まさか虎ちゃんと郁が夕方会っていたなんて…。
あれから虎ちゃんに会っていない。
仕事でちょっと忙しいと言って会ってくれない。
電話をかけても出てくれるのが少ない。
考えてみればあの日の次の日なんか様子が変だったような気もする。
じゃなんで?理由がわからない。
あるとすれば私が何かしちゃったのかもしれない。
無知だったから何をすればわからなかった。
だから幻滅したのかもしれない。
確信はないけど虎ちゃんは初めてじゃない気がした。
緊張も戸惑いも感じたけれど、私のそれとは次元が違うと思った。
虎ちゃんが気になって郁に連絡しなかった。
私の中で虎ちゃんがいっぱいになっていた。
正直郁の存在を忘れてた。
携帯をリビングに置いたまま自分の部屋に戻った。
少ししてから携帯を忘れたことに気付いて一階に下りようと部屋を出た時、携帯の着信音が鳴った。
「歩…電話よ。」
「はぁ〜い。」
一階に下りたときには電話は切れていた。
「誰だった?」
「八雲 郁って出てたけど…高校の友達?」
「えっうん…。」
咄嗟に嘘を言ってしまった。
「本当に?」
なんだろう…お母さんの雰囲気が、いつもと違う。
「なんで?」
「ううん、なんでもないけど…その八雲さんて男の子じゃないわよね?」
「えっなんで?」
「それだけでいいから、答えて。」
両腕を掴まれた。
なんでこんなに聞いてくるのか、わからない。
「お母さん…痛いよ…。」
掴まれた腕が痛い。
「いいから答えなさい!」
お母さんが怒鳴るなんて…。
勢い押されて答えた。
「そう。男の子。」
「その子は歩より年上?」
「うん。」
「4歳年上?」
「…うん。」
なんでお母さんが知ってるの?
なんで、そんなに当てるの?
「…まさかその子は耳が聞こえない?」
「…うん。」
意味がわからない。
「お母さん…知ってるの?郁の事?」
「まさかそんな…」
私の腕を掴んでる手が震え出した。
「お母さん!?どうしたの?なに?なんなの?」
「その子は歩の事知ってるの?あなたたちはどうゆう関係なの!?」
「お母さんが言ってる意味がわかんないよ!」
お母さんの息が上がってるのがわかる。
凄く興奮してるのが言葉と息遣いで伝わってくる。
「あなたたちはどうゆう関係なの?」
一つ溜息を付いたお母さんは冷静さを取り戻したように聞いてきた。
「それは…虎ちゃんと付き合う前に私が好きだった人なの…。」
「もう会わないで!」
「なんでそんな事言うの?ちゃんと説明してよ!」
お母さんは深い溜息を付いた。
「その子はお父さんが事故に遭った時轢いてしまった被害者の男の子よ。」
「まさかそんな…。」
突拍子もないことに笑ってしまう。
「間違いないわ…八雲 郁。忘れるわけないじゃない。あの人が死んでしまって歩も目が見えなくなって…被害者の男の子も耳が聞こえなくなった。何度も謝りに行ったの。歩が退院してからも、歩を連れて何度も謝りに行った。聞こえなくなったあの子の睨みつける目も一度も忘れたことがなかった…それから一年もしないうちに八雲さんは引越しして行ったの。ここに居れば思い出して辛くなるからって…。」
「お母さん…嘘だよね?」
聞いても信じられなくて、お母さんに聞くけど黙ったまま答えてくれない。
「じゃ私は郁が恨んでる人の娘ってこと??そんな…。」
「だからもう、会わないで欲しいの。なにかあってからじゃ歩も郁くんも辛い想いしかしないでしょ!!」
「ごめんなさい。でも、もう…遅いよ…。」
「歩?」
小声で言った言葉はお母さんに届かなかった。
「歩、今なんて言ったの?」
今度は私が深く深呼吸をした。
「もう遅いの。私…郁とキスしちゃったよ。」
そう言うと涙がこみ上げた。
お母さんがすぐさま私を抱きしめた。
「もう私たち恋しちゃってる…。お母さん…私どうしよう…。このままじゃ虎ちゃんも郁も傷付けちゃう。」
「そんな…歩…。」
お母さんが泣いてる…。
声が震えてる。
お母さんも、なんて言っていいのかわからないんだ。
その言葉を言ったまま黙ってしまった。
少しして私が落ち着くまで待ってたように、お母さんが話し出した。
「歩はどうしたいの?」
「わからない…。虎ちゃんも大事だし、郁も好きなの。」
「そっか…二人の間で迷ってるのね…」
「うん…。」
「郁くんとキスしたって言ったけど…じゃ体の関係を持ったのは虎ちゃんなの?」
驚いて顔を上げた。
どうして知ってるのか不思議だった。
まさか虎ちゃんが言った?
いや、そんなことあるわけないし…。
考えてると、お母さんが話した。
「そんな不思議そうな顔して…自分の産んだ子のこと見れば変わったことぐらいわかるわよ!仕草とか態度とか雰囲気が違うのよ。あぁ女になったなって…まぁ女の勘みたいなもんよ。」
「そうなの?」
「じゃ郁くんとはそこまでなのね…お母さんの意見言っていい?」
「うん…。」
「お母さんはさっきも言った通り、もう会わないで欲しい。でも歩がもし郁くんを選んだなら、その時は応援する。」
「お母さん…。」
「でもその時はちゃんと彼に言いなさい。それでもいいと、歩が好きだと言ってくれたら、お母さんは応援する。」
「うん…わかった。」
「まぁゆっくり考えなさい。ちなみに今はどっちが好きなの?」
「虎ちゃん…。」
「そう…。」
「お母さんはどっちにしたらいいと思う?」
「う〜ん。どっちでもないわ。決めるのは歩自身のココでしょ!?」
そう言って私の胸に手を当てた。
「うん…。」
「どっちの答えを選んでも、どっちかは傷付けてしまうわ。勿論、歩自身も。でもそれが恋よ。」
そう言ったお母さんの声は女の人の声をしていた。
「わかった。自分で答え選ぶ。」
「よし。じゃ今夜は何食べたい?今から買い物行くから。」
「じゃハンバーグがいい。」
わかったと言って出かけて行った。
お母さんに言われた言葉を思い返す。
それが恋…これが恋。だとしたら凄く残酷なものかもしれない。
今の状況は自分で招いた事だけど、なんで好きだと思える人が同時に現れるのだろう。
しかもその相手の一人はお父さんが起こした事故の被害者。
それが本当かどうかも確かめなきゃ…もしかしたら同姓同名かもしれない。
でもなんで郁は気付かなかったんだろう?
気付いてるけど知らないふり?
あっそっか…今は井伊垣だからだ…。
お母さんはお父さんが死んでから一周忌を迎えた後で旧姓に戻したんだった。
じゃ旧姓を言えば気付くかもしれない。
でも今は虎ちゃんが避けてる理由が知りたい。
そう思ってたけど、私の思い過ごしだったのか仕事が落ち着いたと言っていつもと変わらない日常が戻ってきた。
ずっと郁の事は気になっていたけれど私は虎ちゃんにハマっていた。
初めての経験をして愛が生まれたのか虎ちゃんのそばにいたくて仕方がなかった。
夏休みの間、殆ど虎ちゃんの家に入り浸った。
勉強するのも食事も寝るのも…。
自分の家で過ごすより多くの時間を虎ちゃんの家で過ごした。
あの日から何度も虎ちゃんと抱き合った。
そのたびに満たされる。
愛し愛されてる喜びに満たされる。
正直、郁の存在は私の中から姿を消していた。
どうせ郁には、まどかさんが居る。
そう思っていた。
夏休みの最後の日、郁にメールをした。
見えないけれどボタン音でメールはできる。
《明日始業式の後、会いたい》と。
返事を貰っても確認ができないけれど、時間と待ち合わせ場所をメールした。
30分経っても来ない場合帰りますと付け足した。
久しぶりに会えるのかと思うと勝手にも心が躍った。
明日、虎ちゃんは仕事で朝から地方に行くと行っていたから見られる心配はない。
次の日待ち合わせ場所に私より先に行くは待っていて、私が着くとすぐに肩を叩いて来てくれた。
その後私たちはカフェでお茶をした。
【この後僕の家に来ない?】
郁はまっすぐに誘って来た。
【歩と抱き合いたいんだ。】
間髪入れず文字を連ねて行く。
好きではいるけど、虎ちゃんが占領してる。
うまく言えないけど、どちらも好きだけど、どちらとも出来ない。
用事があるからと夕方には帰った。
聞こうと思ってた事は何一つ聞けなかった。
事故の事…聞きたかったのに…。
夕方には帰ると言っていたのに虎ちゃんと連絡がつかなかった。
帰りに家に寄ったけど居なかった。
自宅に着いてもう一度虎ちゃんに電話したけれど、留守番電話のメッセージが流れた。
待ってるから連絡して欲しいとメッセージを入れて電話を切った。
その晩、酔った虎ちゃんからの電話で呼び出され会うまでは知らなかった。
まさか虎ちゃんと郁が夕方会っていたなんて…。