暗闇の恋
深い眠りから覚めたのは次の日の夕方だった。
昨日あった熱は嘘のようにひいていた。
携帯を確認すると仕事の先輩から何度も着信があった。
急いでかけなおす。
「あっ虎生くん!よかったぁ…」
「すみません…どうしたんですか?」
「急なお願いなんだけど、明日から一週間程地方に行って欲しいの…虎生くんの生徒さんは私が見るから…どうかしら?」
「いいですよ。全然構いません。」
俺は即答した。
歩を避けたとしても、この家に入れば自然と会ってしまう。
正直今は会いたくもない。
顔も見たくなかった…。
明日朝一番の新幹線らしいから、その日支度をして、早々に眠りに着いた。
よかった…これで歩から離れられる。
離れたからと言って忘れるわけじゃない。
わかってる。
これはただの其の場凌ぎにすぎないことも。
それでも今は距離をおきたかった。
一週間程歩から離れて仕事していると仕事のことばかりで、考えないで済んだ。
でも仕事が終われば歩のことばかり考えてしまう。
携帯は歩からの着信ばかりでいっぱいだった。
無視ばかりで男らしくない。
自分がこんなに女々しいとは思ってみなかった。
明日家に帰るけれど、一度ちゃんと歩に向き合おう。
この一週間、歩を嫌いになれないでいる。
それどころか想いは募るばかりだ。
歩のした事を許せるかどうかはわからない。
けれど、変わらず歩を愛してると思っている。
自分でもどうしたいのかわからない。
酷いことをされたのに、変わらず愛してる。
歩が愛おしくてたまらない。
会いたくて、触れたくてたまらない。
なのにあの男が頭をよぎる。
その瞬間いたたまれなくなる。
この一週間その繰り返しだった。
次の日昼頃に自宅に着いた。
久しぶりの自宅は一週間前のままだった。
今日夕方、歩に連絡しよう。
そう決めたのに、歩に何度電話をしても出なかった。
6時になっても7時になっても8時になっても…そして9時なろうとした時、自宅の電話が鳴った。
歩かなと思いながら、でもなんで自宅の電話なんだ?
「もしもし?」
「虎ちゃん!?歩そっち行ってない?」
「えっ来てないですよ。」
電話の相手は歩のおばさんで、何か凄く慌てている。
「おばさん…落ち着いて。何かあったんですか?」
「理沙ちゃんに聞いたんだけど…。」
おばさんの話では理沙ちゃんとカフェに行くとあの男とあの男の彼女に出くわして過去の話をした…らしい。
だとすると、終わったのかもしれない。
心配になった理沙ちゃんが何度電話をかけても歩が出ないから自宅に電話した結果家にも戻ってない。
待っていたけれど、電話も出ないし、かかってもこない。
それでおばさんは俺に連絡した。
確かに何かあればいつも俺のところに来ていた。
でも、さすがに今は来ないだろう。
わかっているんだけど、あの子のことだから…とおばさんは言った。
電話を切って歩の家に向かった。
どんなことがあっても、今までこんな事はなかった。
おばさんは思っていたより、参ってるように思えた。
「おばさんは此処に居て。帰って来るかもしれないし、連絡が入るかもしれない。俺が探しに行くから。」
「えぇそうね…虎ちゃん、お願…」
自宅の電話鳴った。
おばさんは慌てて電話に向かいディスプレイに、歩携帯の文字見て溜息を吐いて受話器を取った。
「こんな時間まで何してるの!!」
「あの…この携帯、忘れ物でして…」
「えっ…あっごめんなさい。はい、えぇ。わかりました。」
落胆した様子で受話器を置いた。
「おばさん?」
「あの子が忘れて行った店の人からだったわ。駅前の×××ってカフェからだった…。」
「それで、出なかったのか…じゃ俺は探しに行くから。」
「えぇ。」
俺は家を出た。
けれど何処をどう探せばいい?
とりあえずさっき言っていたカフェに行こう。
走って20分程で店に着いた。
看板はなく、ロールスクリーンが下ろされて電気も消えている。
けれど微かに奥の方に灯りが見える。
俺はドアを叩いた。
ほどなくして一人の女の子が出て来た。
「すみません。先程携帯のことで電話もらったんですけど…。」
ガラスドア越しで話すと、彼女はあぁぁという表情になり鍵を開けてくれた。
「井伊垣さんですよね?」
「あっはい。」
「これです。」
レジ台の引き出しから歩の携帯を出してきてくれた。
「閉ってるのにすみませんでした。」
「いえ…。」
「あの、この携帯の子なんですけど…」
「あぁ目の…」
「はい、目の見えない子ですけど。ここを出てどっちに行ったかわかりませんか?」
「えっと、たしか駅とは反対側に…」
「本当ですか!?」
「えぇ。店内でなんだか少し揉めて…だから出て行っても少し目で追ったので…。」
「ありがとうございます。」
俺は礼を言うと早々に店を出た。
彼女が言った方向に足を進めた。
こんな時間じゃ目撃者も殆ど居ない。
すれ違う人に聞いても聞いても、わからないと言われる。
路地が出てくるたび、どっちだと考える。
勘と運しかなかった。
「ねぇお兄さん。」
振り返ると女装をした男性…簡単に言うとオネェと言われる人が声をかけてきた。
「はい?」
「さっきから誰か探してるみたいだけど…。」
「えぇ。高校生で目が見えない女の子が通りませんでしたか?見た目は腰ぐらいまでの髪で綺麗な黒髪で、笑うと凄く可愛い女の子なんです!」
俺の言葉を聞くと彼女は笑い出した。
笑われたことにカッとなる。
「やだぁ怒らないでよ!だってお兄さん、綺麗とか可愛いとかお兄さんの気持ちばっかりなんだもの…その子の事がよっぽど好きなのね…で、その子なんだけど、お兄さんの言う可愛い子かどうかわからないけど、目の見えない女の子は30分程前にこの道をあっちに歩いて行ったわよ。」
「本当ですか?!」
「えぇここで客引きしてたから間違いないわよ。」
「あっちですね。ありがとうございます。」
俺は頭を下げて再び走った。
ずっと走っているから足はもう限界だった。
けれど、止めるわけにはいかない。
ある程度進んだ時白杖の音が響いてきた。
静まり返っているから音が聞こえてきたんだ。
どこだ?何処から聞こえてくる?
路地という路地を走って見る。
聞こえてきていた音がなくなった。
聞き違いだったのか?
ふと目に一人の人影が止まった。
マンションの植え込みに腰を下ろしている女の子がいる。
暗くて顔が見えない。
ゆっくり近付く。
声をかけた。
「虎ちゃん…?」
という言葉と同時に女の子が顔を上げた。
俺は駆け寄り、歩の頬を殴った。
初めて歩を殴った。
殴ってしまった自分の手が少し痛かった。
歩は泣き出した。
怖かったんだと思った。
俺は思わず引き寄せ抱きしめた。
久しぶりの歩の感触はたまらなく心を躍らせた。
自分でも不謹慎だと思った。
脳裏におばさんが浮かんだ。
とにかく先に電話をしないといけないと思って電話をかけた。
電話先のおばさんはホッとした声を出した。
電話を切った後、歩と一緒にタクシーに乗った。
歩いて帰る程の気力も体力も残っていなかった。
車内で歩が俺の手を握ってきた。
どうゆうつもりなのかわからなかったけれど、きっと不安で心細かったのだと思った。
同時にこの手を俺はもう離さないと思えた。
やっぱり歩のことは俺が守りたいと…。
歩のしたことは許せないと思っていた。
でも歩を抱きしめた時そんなことはどうだってよくなっていたんだ。
だから俺は歩と…。
握り返した手を歩は解くことなく、ただ黙って家まで帰った。
昨日あった熱は嘘のようにひいていた。
携帯を確認すると仕事の先輩から何度も着信があった。
急いでかけなおす。
「あっ虎生くん!よかったぁ…」
「すみません…どうしたんですか?」
「急なお願いなんだけど、明日から一週間程地方に行って欲しいの…虎生くんの生徒さんは私が見るから…どうかしら?」
「いいですよ。全然構いません。」
俺は即答した。
歩を避けたとしても、この家に入れば自然と会ってしまう。
正直今は会いたくもない。
顔も見たくなかった…。
明日朝一番の新幹線らしいから、その日支度をして、早々に眠りに着いた。
よかった…これで歩から離れられる。
離れたからと言って忘れるわけじゃない。
わかってる。
これはただの其の場凌ぎにすぎないことも。
それでも今は距離をおきたかった。
一週間程歩から離れて仕事していると仕事のことばかりで、考えないで済んだ。
でも仕事が終われば歩のことばかり考えてしまう。
携帯は歩からの着信ばかりでいっぱいだった。
無視ばかりで男らしくない。
自分がこんなに女々しいとは思ってみなかった。
明日家に帰るけれど、一度ちゃんと歩に向き合おう。
この一週間、歩を嫌いになれないでいる。
それどころか想いは募るばかりだ。
歩のした事を許せるかどうかはわからない。
けれど、変わらず歩を愛してると思っている。
自分でもどうしたいのかわからない。
酷いことをされたのに、変わらず愛してる。
歩が愛おしくてたまらない。
会いたくて、触れたくてたまらない。
なのにあの男が頭をよぎる。
その瞬間いたたまれなくなる。
この一週間その繰り返しだった。
次の日昼頃に自宅に着いた。
久しぶりの自宅は一週間前のままだった。
今日夕方、歩に連絡しよう。
そう決めたのに、歩に何度電話をしても出なかった。
6時になっても7時になっても8時になっても…そして9時なろうとした時、自宅の電話が鳴った。
歩かなと思いながら、でもなんで自宅の電話なんだ?
「もしもし?」
「虎ちゃん!?歩そっち行ってない?」
「えっ来てないですよ。」
電話の相手は歩のおばさんで、何か凄く慌てている。
「おばさん…落ち着いて。何かあったんですか?」
「理沙ちゃんに聞いたんだけど…。」
おばさんの話では理沙ちゃんとカフェに行くとあの男とあの男の彼女に出くわして過去の話をした…らしい。
だとすると、終わったのかもしれない。
心配になった理沙ちゃんが何度電話をかけても歩が出ないから自宅に電話した結果家にも戻ってない。
待っていたけれど、電話も出ないし、かかってもこない。
それでおばさんは俺に連絡した。
確かに何かあればいつも俺のところに来ていた。
でも、さすがに今は来ないだろう。
わかっているんだけど、あの子のことだから…とおばさんは言った。
電話を切って歩の家に向かった。
どんなことがあっても、今までこんな事はなかった。
おばさんは思っていたより、参ってるように思えた。
「おばさんは此処に居て。帰って来るかもしれないし、連絡が入るかもしれない。俺が探しに行くから。」
「えぇそうね…虎ちゃん、お願…」
自宅の電話鳴った。
おばさんは慌てて電話に向かいディスプレイに、歩携帯の文字見て溜息を吐いて受話器を取った。
「こんな時間まで何してるの!!」
「あの…この携帯、忘れ物でして…」
「えっ…あっごめんなさい。はい、えぇ。わかりました。」
落胆した様子で受話器を置いた。
「おばさん?」
「あの子が忘れて行った店の人からだったわ。駅前の×××ってカフェからだった…。」
「それで、出なかったのか…じゃ俺は探しに行くから。」
「えぇ。」
俺は家を出た。
けれど何処をどう探せばいい?
とりあえずさっき言っていたカフェに行こう。
走って20分程で店に着いた。
看板はなく、ロールスクリーンが下ろされて電気も消えている。
けれど微かに奥の方に灯りが見える。
俺はドアを叩いた。
ほどなくして一人の女の子が出て来た。
「すみません。先程携帯のことで電話もらったんですけど…。」
ガラスドア越しで話すと、彼女はあぁぁという表情になり鍵を開けてくれた。
「井伊垣さんですよね?」
「あっはい。」
「これです。」
レジ台の引き出しから歩の携帯を出してきてくれた。
「閉ってるのにすみませんでした。」
「いえ…。」
「あの、この携帯の子なんですけど…」
「あぁ目の…」
「はい、目の見えない子ですけど。ここを出てどっちに行ったかわかりませんか?」
「えっと、たしか駅とは反対側に…」
「本当ですか!?」
「えぇ。店内でなんだか少し揉めて…だから出て行っても少し目で追ったので…。」
「ありがとうございます。」
俺は礼を言うと早々に店を出た。
彼女が言った方向に足を進めた。
こんな時間じゃ目撃者も殆ど居ない。
すれ違う人に聞いても聞いても、わからないと言われる。
路地が出てくるたび、どっちだと考える。
勘と運しかなかった。
「ねぇお兄さん。」
振り返ると女装をした男性…簡単に言うとオネェと言われる人が声をかけてきた。
「はい?」
「さっきから誰か探してるみたいだけど…。」
「えぇ。高校生で目が見えない女の子が通りませんでしたか?見た目は腰ぐらいまでの髪で綺麗な黒髪で、笑うと凄く可愛い女の子なんです!」
俺の言葉を聞くと彼女は笑い出した。
笑われたことにカッとなる。
「やだぁ怒らないでよ!だってお兄さん、綺麗とか可愛いとかお兄さんの気持ちばっかりなんだもの…その子の事がよっぽど好きなのね…で、その子なんだけど、お兄さんの言う可愛い子かどうかわからないけど、目の見えない女の子は30分程前にこの道をあっちに歩いて行ったわよ。」
「本当ですか?!」
「えぇここで客引きしてたから間違いないわよ。」
「あっちですね。ありがとうございます。」
俺は頭を下げて再び走った。
ずっと走っているから足はもう限界だった。
けれど、止めるわけにはいかない。
ある程度進んだ時白杖の音が響いてきた。
静まり返っているから音が聞こえてきたんだ。
どこだ?何処から聞こえてくる?
路地という路地を走って見る。
聞こえてきていた音がなくなった。
聞き違いだったのか?
ふと目に一人の人影が止まった。
マンションの植え込みに腰を下ろしている女の子がいる。
暗くて顔が見えない。
ゆっくり近付く。
声をかけた。
「虎ちゃん…?」
という言葉と同時に女の子が顔を上げた。
俺は駆け寄り、歩の頬を殴った。
初めて歩を殴った。
殴ってしまった自分の手が少し痛かった。
歩は泣き出した。
怖かったんだと思った。
俺は思わず引き寄せ抱きしめた。
久しぶりの歩の感触はたまらなく心を躍らせた。
自分でも不謹慎だと思った。
脳裏におばさんが浮かんだ。
とにかく先に電話をしないといけないと思って電話をかけた。
電話先のおばさんはホッとした声を出した。
電話を切った後、歩と一緒にタクシーに乗った。
歩いて帰る程の気力も体力も残っていなかった。
車内で歩が俺の手を握ってきた。
どうゆうつもりなのかわからなかったけれど、きっと不安で心細かったのだと思った。
同時にこの手を俺はもう離さないと思えた。
やっぱり歩のことは俺が守りたいと…。
歩のしたことは許せないと思っていた。
でも歩を抱きしめた時そんなことはどうだってよくなっていたんだ。
だから俺は歩と…。
握り返した手を歩は解くことなく、ただ黙って家まで帰った。