暗闇の恋
*愛のかたち*
あの日、あの夏の終わり歩とあんな別れ方をしてから早いもので4年が経った。
あれから歩の事を一度も忘れたことはない。
最近では、街の至る所で彼女を目にする。
盲目の天才ピアニスト。
歩についた、その肩書きは僕との距離を離して遠い存在になった。
「パァパァ〜!!」
ヨチヨチ歩きで駆け寄ってくる女の子が僕の足にしがみつく。
その後ろから、まどかが走ってくる。
「ほら、ゆっくり話さないとパパわかんないよ!」
「大丈夫。まだ、唇読めるから。」
二年前まどかのお腹に僕との子供を授かって、学生の身でありながら結婚をした。
まどかの両親が僕たちの支えになってくれた。
そして、まどかのお父さんが調べ紹介してくれた病院で、僕は手術を受け聴覚を取り戻した。
聴覚と言っても神経が切断されてる僕には無理なことだと諦めていたけれど、医療は日々進化してるんだよ。と、お父さんに言われ半信半疑で行った病院は天才の集まりだった。
僕の体を調べまくった挙句方法が見つかり手術が出来た。
久しぶり聞いた音は微かに聞こえた、まどかの声だった。
心配そうな顔で覗き込み必死に僕の名前を呼んでいた。
リハビリを重ね日常生活での音が今ではわかるようになった。
だから、今では歩が弾くピアノの音も聞いている。
昔の音色はわからないけれど、歩の奏でる音色は優しさで溢れてるように聴こえた。
歩のCDは年間チャートの上位を独占し、街の至る所で看板やポスターを目にする。
本屋でも音楽雑誌の表紙を飾ってある。
海外での仕事もしてるみたいで、時々ワイドショーでインタビューをされてるのを見たりする。
その時は決まって隣に彼がいている。
歩は井伊垣から新田 歩になっていた。
まどかが妊娠がわかった時期と同じ頃、歩が結婚をした。
いつか何処かでまた偶然に出会えたら…と思っていた僕の儚い夢は、妊娠と、歩の結婚で消え去った。
僕だけが歩を忘れていなかったんだと思うと、あの時は苦しかった。
歩はもう僕を忘れ未来を歩いていたんだ。
しかもまどかも気にしてない様に思えた。
妊娠中も音楽は胎教に良いからと歩のCDを買ってきた。
そもそも、歩がCDを出してることを知ったのは、その時だったんだ。
「みてみて、歩ちゃんのCDあったの!!歩ちゃん凄いよね!」
無邪気な笑顔で僕にCDを見せてきた。
驚いたのは歩がCDを出していたことより、ピアノをしていたことだった。
本当に歩のことを知らなかったんだと思った。
今では遠い場所からかもしれないけれど、歩を応援しているんだ。
「郁?今日カレーでいい?」
「あっ?晩御飯?…うん、いいよ。なぁ結衣?」
「もう、結衣はまだ食べないよぉ。」
何気ない会話が幸せだと思える。
小さい小さい手で僕の指を掴んで拙い歩きで進む、娘が愛おしく思える。
片手を僕が、もう一つをまどかが掴んで歩く。
いろんなことがあったけど今は幸せだと思える。
「あっそういえば近くのホールで歩ちゃんのリサイタルあるんだって!」
「あっそうなんだ。凄いな。」
「もう少し結衣が大きくなったら行ってみたいね。あっでも高いかな?!」
「さぁどうだろう。」
交差点にさしかかり、まどかが結衣を抱きかかえた。
信号が点滅し始めたので、僕たちは足を止めた。
ここで歩と出会い、歩に恋をした。
本当に今では良い思い出だと思った。
ふと顔を上げると、人混みに紛れて反対側の歩道に新田さんを見つけた。
その隣には、当たり前の様に歩が腕を組んで立っている。
まどかも気付いたらしく、僕を振り返り見た。
僕は、そうだなと頷いてみせる。
僕たちの視線に気付いたのか、新田さんがこちらを見た。
そして、歩に何か耳元で伝えた。
瞬間、顔を上げ驚いた表情浮かべた。
数年ぶりに見る歩はテレビや雑誌と違って、あの時のままにも思えた。
いや、髪が伸び少し大人びた表情にも見えた。
信号が青に変わり僕たちは歩き出し歩道を渡って行く。
渡り終えると新田さんが話しかけてきた。
「お久しぶりです。」
「お久しぶりです。」
まどかが答えた。
「歩ちゃん凄いね。私この子がお腹にいる時CD買っちゃった。」
「この子…お子さんいらっしゃるんですか?」
初めて聞く歩の声。
あの頃想像してた通りの優しくて可愛い声だった。
「うん、一歳ちょっとになる。」
「そうなんですか。」
「じゃ私たちは急ぎますので…」
新田さんが腕時計を見ると、そう言って行こうとした。
「頑張って…夫婦共々応援してます。」
初めて声を出した。
二人は驚いて振り返る。
「郁?声…」
「あぁ数年前から聞こえるんだ。だから君のピアノも聴いてる。」
「そっか…ありがとう。恥ずかしくないように、頑張る。それじゃお元気で。」
「あぁ歩も…。僕はもう大丈夫だから。」
なんでそんな事を言ったのか…。
きっと、ずっと、歩は気にしていて父親のした事とはいえ罪悪感を持ち続けている。
そんな感じがしたんだ。
だから、今の僕は幸せに暮らしていると伝えたかった。
そう言って僕たちはそれぞれの道を再び歩き出した。
振り返ることは、もうない。
「さっ行こう。」
「うん。」
僕は結衣を抱き、手を出しまどかと手を繋いだ。
これからも、僕たちはこうやって歩いていくんだ。
あれから歩の事を一度も忘れたことはない。
最近では、街の至る所で彼女を目にする。
盲目の天才ピアニスト。
歩についた、その肩書きは僕との距離を離して遠い存在になった。
「パァパァ〜!!」
ヨチヨチ歩きで駆け寄ってくる女の子が僕の足にしがみつく。
その後ろから、まどかが走ってくる。
「ほら、ゆっくり話さないとパパわかんないよ!」
「大丈夫。まだ、唇読めるから。」
二年前まどかのお腹に僕との子供を授かって、学生の身でありながら結婚をした。
まどかの両親が僕たちの支えになってくれた。
そして、まどかのお父さんが調べ紹介してくれた病院で、僕は手術を受け聴覚を取り戻した。
聴覚と言っても神経が切断されてる僕には無理なことだと諦めていたけれど、医療は日々進化してるんだよ。と、お父さんに言われ半信半疑で行った病院は天才の集まりだった。
僕の体を調べまくった挙句方法が見つかり手術が出来た。
久しぶり聞いた音は微かに聞こえた、まどかの声だった。
心配そうな顔で覗き込み必死に僕の名前を呼んでいた。
リハビリを重ね日常生活での音が今ではわかるようになった。
だから、今では歩が弾くピアノの音も聞いている。
昔の音色はわからないけれど、歩の奏でる音色は優しさで溢れてるように聴こえた。
歩のCDは年間チャートの上位を独占し、街の至る所で看板やポスターを目にする。
本屋でも音楽雑誌の表紙を飾ってある。
海外での仕事もしてるみたいで、時々ワイドショーでインタビューをされてるのを見たりする。
その時は決まって隣に彼がいている。
歩は井伊垣から新田 歩になっていた。
まどかが妊娠がわかった時期と同じ頃、歩が結婚をした。
いつか何処かでまた偶然に出会えたら…と思っていた僕の儚い夢は、妊娠と、歩の結婚で消え去った。
僕だけが歩を忘れていなかったんだと思うと、あの時は苦しかった。
歩はもう僕を忘れ未来を歩いていたんだ。
しかもまどかも気にしてない様に思えた。
妊娠中も音楽は胎教に良いからと歩のCDを買ってきた。
そもそも、歩がCDを出してることを知ったのは、その時だったんだ。
「みてみて、歩ちゃんのCDあったの!!歩ちゃん凄いよね!」
無邪気な笑顔で僕にCDを見せてきた。
驚いたのは歩がCDを出していたことより、ピアノをしていたことだった。
本当に歩のことを知らなかったんだと思った。
今では遠い場所からかもしれないけれど、歩を応援しているんだ。
「郁?今日カレーでいい?」
「あっ?晩御飯?…うん、いいよ。なぁ結衣?」
「もう、結衣はまだ食べないよぉ。」
何気ない会話が幸せだと思える。
小さい小さい手で僕の指を掴んで拙い歩きで進む、娘が愛おしく思える。
片手を僕が、もう一つをまどかが掴んで歩く。
いろんなことがあったけど今は幸せだと思える。
「あっそういえば近くのホールで歩ちゃんのリサイタルあるんだって!」
「あっそうなんだ。凄いな。」
「もう少し結衣が大きくなったら行ってみたいね。あっでも高いかな?!」
「さぁどうだろう。」
交差点にさしかかり、まどかが結衣を抱きかかえた。
信号が点滅し始めたので、僕たちは足を止めた。
ここで歩と出会い、歩に恋をした。
本当に今では良い思い出だと思った。
ふと顔を上げると、人混みに紛れて反対側の歩道に新田さんを見つけた。
その隣には、当たり前の様に歩が腕を組んで立っている。
まどかも気付いたらしく、僕を振り返り見た。
僕は、そうだなと頷いてみせる。
僕たちの視線に気付いたのか、新田さんがこちらを見た。
そして、歩に何か耳元で伝えた。
瞬間、顔を上げ驚いた表情浮かべた。
数年ぶりに見る歩はテレビや雑誌と違って、あの時のままにも思えた。
いや、髪が伸び少し大人びた表情にも見えた。
信号が青に変わり僕たちは歩き出し歩道を渡って行く。
渡り終えると新田さんが話しかけてきた。
「お久しぶりです。」
「お久しぶりです。」
まどかが答えた。
「歩ちゃん凄いね。私この子がお腹にいる時CD買っちゃった。」
「この子…お子さんいらっしゃるんですか?」
初めて聞く歩の声。
あの頃想像してた通りの優しくて可愛い声だった。
「うん、一歳ちょっとになる。」
「そうなんですか。」
「じゃ私たちは急ぎますので…」
新田さんが腕時計を見ると、そう言って行こうとした。
「頑張って…夫婦共々応援してます。」
初めて声を出した。
二人は驚いて振り返る。
「郁?声…」
「あぁ数年前から聞こえるんだ。だから君のピアノも聴いてる。」
「そっか…ありがとう。恥ずかしくないように、頑張る。それじゃお元気で。」
「あぁ歩も…。僕はもう大丈夫だから。」
なんでそんな事を言ったのか…。
きっと、ずっと、歩は気にしていて父親のした事とはいえ罪悪感を持ち続けている。
そんな感じがしたんだ。
だから、今の僕は幸せに暮らしていると伝えたかった。
そう言って僕たちはそれぞれの道を再び歩き出した。
振り返ることは、もうない。
「さっ行こう。」
「うん。」
僕は結衣を抱き、手を出しまどかと手を繋いだ。
これからも、僕たちはこうやって歩いていくんだ。