ハコイリムスメ。
それを見たサトは急に物思いにふけるような目付きになって、やがてポンと手を打って言った。


「ああ、わかった。あれだよな、あれ」

「は?何が?」

「葵ちゃんがお前になついてる様子から考えると…ほら、なんつったかなぁ、『すりこみ』?」

「ああ、雛鳥が初めてみたものを親と思い込むってやつ?」

「そー。それに近いよな」



………うん、わかる気がする。

出会ったとき、葵はまだ自分の名前も言葉も知らなくて……


だけど、今は違う。


まだ読み書きはできないけど、たくさんの単語も知らないけど、それでも。

葵の世界は、動き始めてる。





「はは…、葵は俺の娘かよ」
「少なくとも、葵ちゃんにとっては、お前はかなり大きな存在なんだろ」


サトは言うだけ言って、テレビに目を戻した。




俺はというと、親父らしからぬ気持ちになってしまって、落ち着くために顔を洗いに洗面所へ行った。
トコトコついてきた葵を鏡越しに見て、妙な衝動にかられた。







気付けば、さっき美佐にしたのと同じように………





いや…
もっと優しくて、触れるだけの、掠めるだけの…




キスをしていた。



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