ハコイリムスメ。
ただ軽く唇を重ねている間、俺は我に帰った。



…………………ん?

………

えぇえぇええぇえぇえぇええぇ!?!?!?!?

なななな!?何やってんだ俺は!!!


これがマンガかなんかだったら絶対「がばあ!」て大袈裟な効果音が書かれるくらいの慌てぶりで顔を離した。

「ご、ごごごめん!なんか、おかしくなって!」

右手の甲で口を押さえる。
チラリと目の端に写った鏡には、真っ赤な横顔が写っていた。
ガキか俺は。ただ掠めた程度で!!マジで何!?今の何!?


ひとりであたふたしていたら、葵が

「どーしたの、ちとせくん」

って、ものすごく不思議そうな顔して聞いてきた。


「………………へ?」
「うん?」


沈黙沈黙沈黙。

リビングからのサトの笑い声が、リアルに響いた。





あ~そうですよネ───。

よくよく考えてみれば、葵がキスを知ってるはずないね。
うん。

良かったよかっ…



良くないだろ!
何、俺!?
キモい!え、娘にキスする親父!?


美佐に対する裏切り行為…いやいや、そんな大それたことじゃないよな?



もんもんと考える俺の頬を、葵がむにーっとつねった。
たぶん、仏頂面が気に入らなかったんだろう。

「いひゃい、いひゃい」

両側にうにーっと引き延ばされたせいで、「痛い」が「いひゃい」になる。
葵がキャッキャッと笑って、空気が楽しげに震えた。

「ちとせくんおもしろーい」

うあー…
なんだかキラキラしてるぞー…




「はらへった───」
「あ、わりーわりー…今作る!!」

サトの声に、洗面所を出た。
ここでの出来事は…

うん、忘れましょう。





無理やり納得して、リビングに戻った。





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