ハコイリムスメ。
「な、何もしねーよ」
俺は少なからず慌てて、両手を離し肩の高さまで上げた。けれど俺の言葉など耳に入っていないらしく、ただ首を振り続け、うめき、後退る。
「………や…や……」
「悪かったって、何もマジでしねーから」
こんなに慌てたのは、いつ以来だろう?
………ああ、きっと…
頭の中をひっかきまわす。
細い記憶の糸を辿れば、すぐに思い当る。
まだ新しいそれは、思い出すだけでひどく気分が暗くなる。
じいちゃんが朝、ここで冷たくなっていた日だ。
(ああ、俺はとうとう一人きりになっちゃったんだ。)
(どうしよう、どうしよう?)
(明日から、どうしたらいいんだろう?)