ハコイリムスメ。
トオルは大袈裟な身ぶりで必死に否定する。冗談にここまで過剰反応されるとこっちが戸惑うなぁ…。

「だったら何」
「えーとー…まぁ、良いんスけどね、別に」
「わかんねぇやつだな」

すまなそうに目をふせたトオルの横で、なゆちゃんがぱああっと顔を明るくした。

「トオルくんトオルくん!!あたし、あのお店行きたい!!」

指差された先につられて目を向けると、ファンシ~な雑貨屋。

美佐がいつも入りたがる、ぶりっぶりレースふんだん、ピンク特盛!な店だ。俺が最も苦手な空間。だって、明らかに場違いなんだもんな、あの中に立ってると。

トオルも同じような気持ちらしい。
笑ってはいるけど、激しくひきつってる。

「…………あ、うん…行く………?」

すげぇ勇気!

「うん!」

無邪気に笑うなゆちゃんが、今だけは悪魔に見える。
他人の顔が強ばってることに気付かないって、時には罪になるもんなんだな。

「わぁ、嬉しいなぁっ、あたしはじめて入るよ~」
「そうなんだー…アハハ」

トオル、乾いてるぜ笑いが。

「じゃあ!谷神先輩、失礼します~また会えたら嬉しいです!」

いつの間にか俺のことを『先輩』と呼んでいるなゆちゃん。
良いけど、別に。

「あ、うんまたね」
「えへ~っ」

なんで俺相手にそんなに照れるんだか不明だな。



トオルが、じゃあまた、と俺に軽く頭を下げ、俺もああ、と返した。
2人が人ごみに呑まれていくのを見送ってから、俺は俺でアイスを買いにスーパーへ向かうことにした。



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