ハコイリムスメ。

「………ちとせ、さん?」

呆然と名刺を見つめ続けていた俺を心配したのか、トオルが問う。
答えられない。

サトがどうしてるのかなんて知らない。

どうしてさっちゃんの名刺をサトが持っているのかわからない。



チャララ~…タラッタラ、チャラー…

街の喧騒の中でも微かに耳に届いた、最近流行りのCMソングが、俺を少しだけ現実に引き戻した。

ケータイが鳴ったらしい、トオルはメタルブラックのケータイを取り出して、あわてて通話ボタンを押した。

「ごめん、なゆ!今どこ!?」

そういえばなゆちゃんの姿が見当たらなかった。
あの店に残してきたのだろうか。



………かんけーねえや。



俺は名刺をトオルの空いた手に押し付けると、そのまま背を向けた。

後ろから「ちょ、ちとせさん!」と俺を呼ぶ声が聞こえたけれど、聞こえないふりで歩く。





サトの行動の意味理由なんて、俺がわかるハズねぇじゃんかよ。
わかりたくもない。

たくさんある気になること、だけど俺はそれらを箱に押し込んで、ガムテープで蓋をしたんだ。
見たくないし、聞きたくないし、考えるのも嫌だ。



バカだよな、いくら隠しても『事実』は変わらないでそこに落ちてるのに。
忘れたころに第3者に開けられてその中身を突きつけられた方が、よっぽど辛いに決まってるのに。





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