ハコイリムスメ。
オートロックの扉を抜けて、エントランスに入る。クーラーが効いていて、パッと見はホテルのロビーよう。

ホールに俺の足音だけが響く。
コツン、コツン、コツン…
本革の茶色いローファー、スニーカーよりも余計に大きな音。
いつもと変わらないはずなのに、なぜか不気味に感じた静けさ、空気。

エレベーターに乗り込んで、ため息をひとつ。



「…葵」

なぜか少女の名前が口からこぼれおちた。

切なく、やわらかな音。

「あおい」、のたった3音が、俺の鼓膜を震わせた。



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