ハコイリムスメ。
知っていた。
わかっていた。

ちとせは、心を閉じていた。



本人でさえ気付いていないほど深く、彼の本心はもぐってしまっていた。

私だってうまく言えない。
他に言葉が見つからない。



私は幼いころに、たぶんたった1度だけちとせの両親に会ったことがある。
記憶に遠い過去。
ちとせも知らない過去。

なぜってまだ、ちとせは生まれていなかったの。

お腹の大きな、かわいらしいお母さんに、優しそうなお父さん。
漠然と、生まれてくる赤ちゃんは幸せになれるって、子供心に思っていたのに。



どうして、ちとせを置いてどこかに行ってしまったの?
どうして、自分の子供を捨てるの?

まだなにも知らないちとせと一緒に初めて夏祭りに行った日、無邪気な彼を見て私は泣いた。



ちとせは素直にまっすぐ育った。
おじいさんとおばあさんの愛情に囲まれて、そりゃあ生意気だったけど、それでも優しくて、人の痛みのわかる人に育った。





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