ハコイリムスメ。
階段を降りてくる音がして、おばちゃんが顔を出した。
サトの姿はない。
「ごめんねー、あの子返事しないのよ」
「……じゃあ、上がってもいいですか?」
「構わないわよ~。あ、ちとせくんサイダー飲む?」
「あ、お構いなくっ」
やっぱ入るんすね!とトオルが満足げに笑って俺を中に招き入れてくれた。
今まで気づかないふりをしていただけなのか、本当に気付いていなかったのか分からないけれど、小さな優しさがいちいち胸にしみる夜だ。
泣きそうになったのを、トオルが気づいて無いといいんだけど。
「…あ、でも。少し…大事な話があるんで、2階にあいつと2人きりにしてもらってもいいですか?」
俺の頼みにおばちゃんは嫌な顔一つせずに笑って、了解してくれた。
「もちろん。ほら、トオルあんたお風呂入っちゃいなさいよ!」
「へーい。じゃーちとせさんごゆっくり~」
廊下から、おばちゃんとトオルがいなくなってから、俺は階段に足をかけた。