ハコイリムスメ。
俺は返された通知表をちらりと見て、どうでもいいかとカバンにしまった。

見せる相手がいるわけじゃあるまいし。

数字なんかでいちいち評価されちゃたまったもんじゃねえ。
まあこれは負け惜しみも入ってるんだけどさ。
どうせ2か3しかないから。体育は5だけど。

サトが、どーだったよー?と訊いてきたので、「わかってるくせに」としまった通知表を出して渡した。
小学生時代はともかく、中学は5段階評価で、その時と大差ない数字が並んでいる。


「あー、いつも通りかー」

「おう」

「もうちょっと文系に力入れた方が良くないか?」

「あー…」

「お前、大学どうすんの?文系?理系?まさか行かないとか言わねえよな?」

ふとサトの顔を見たら真剣そのもので、笑えた。
噴き出した俺に怪訝な顔を向けるから、

「お前、保護者かよ」

と言ってやった。


サトも苦笑して、それもそうだよなと通知表を閉じながら俺に返してきた。
受け取らずに、「カバン入れといて」と頼むと、自分でやれよーといいながら、しまってくれた。



「えー、バイトは特に禁止じゃないけどなー、違法は止めろよー」

相変わらず、イチの話は適当で、でも要点が明確だ。
だからサトはイチの話が好きだった。他の先生の話は間延びしてだらだらと場つなぎ的要素が多いけれど、イチの話は、短い。


…まあ本人が話を早く終わらせたいっていう気持ちが大きいんだろうけど。


「酒、タバコ、やめろよー。あと、夜11時以降は補導の対象だからな。俺に引き取りに行かせるなんて面倒かけんじゃねえぞー。はい以上!号令!全員とっとと解散!」

「げー!」
「なんだよそれー!」

何人かがおかしげにげらげら笑う。

俺も笑った。



イチってつくづく教師に向いてない。





でも誰よりも教師らしい。






日直の号令で、俺たちはようやく夏に向かおうとするのを引きとめる足枷から解放された。




< 311 / 465 >

この作品をシェア

pagetop