ハコイリムスメ。
玄関に並んだ、俺の黒のサンダルと、葵の白のサンダル。
俺たちの心の色をそのまま反映しているような気がしてちょっと笑ってから、シャワーを浴びに風呂に向かった。
服を脱ぐ、という作業が異様なまでに面倒だったので、そのまま浴室に入ってみた。
ドアを閉め、ふと鏡に映る自分を見たら、風呂場の中で服を着ている。
「……何やってんだ、俺は」
ただのバカじゃねえか、と呟きながら洗面所に戻って、ちゃんと服を脱いで、洗濯機に放り込んだ。
「ベッタベタ…気持ち悪」
さっさと汗を流してしまおうと、もう一度浴室に入った。
蛇口をひねれば、お湯が出る。
なんて恵まれてるんだろう、と思った。
それが当たり前だなんて感じるのは、馬鹿げている。
……まあ、不自由なく普通以上の暮らしをしている俺が言うことでもないんだけどさ。
頭からお湯をかぶりながら、自嘲気味に笑った。
それから、服を着ていた時と同じような動作で視線を前に向けた。
「…俺、痩せた?」
湯気の向こうの鏡を見て、愕然とした。
痩せたというか、正確には筋肉が減った、気がする。
「平和ボケか?」
ためしに腹に力を込めてみても、数か月前の張りがないように見えた。
まあ、どうでもいいかそんなことは。
「平和が1番」
自分でも笑えてくるほど気の抜けたセリフを呟いて、俺は浴室を出た。