ハコイリムスメ。
「ちょっと、葵?どうしたの」
ぐずぐずと鼻をすすって顔を上げない葵は、俺の胸辺りに顔を押し付けて、全く離れようとしない。
Tシャツに涙がしみ込んで、冷たかった。
「ちとせ、お前何したんだよ」
サトが呆れ口調で俺に訊く。
そんなこと言われても、思い当たる節がない。
「葵、葵?」
「どこ、行って、たの……っ、わあああーん」
「……へ?」
ちょっと待てよ、俺、……メール打った気がしたんだけど。
あわててケータイのメールフォルダを確認する。
葵宛のメールは、ちゃんと送信されていた。
「葵、メール見なかったのか?」
「メール……み、見方なんて知らないもー……」
俺にしがみついたまま話すもんだから、声が若干こもっている。
それでも、俺はようやく合点がいって、大きな声で、「ああ!」と叫んだ。
「何?葵ちゃんにケータイ買ったの?」
「昨日な」
お前バカじゃねえの、と親友は心底馬鹿にした声を上げた。
「そりゃあお前、使い方わかるわけねえよ。俺たちとは違うんだから」
「初めて持つケータイなわけだろ?」と、サトはテーブルの上に置きっぱなしになっていた葵のケータイの説明書をパラパラめくった。
あんな分厚いの、葵が一人で読もうとするとも考えにくい。
そもそも、まだ満足に漢字が読めないんだ。
最近ようやく、俺が書斎から見つけてきた小学6年生の教科書で勉強を始めた程度なんだから。