ハコイリムスメ。
「ごめん、ごめん葵」
泣きやませるためにぽんぽんと背中をさする。
ちとせくんが、と葵は言う。
「いなくなっちゃったかと思った…」
「なんないし」
だって、俺の家だよここ。
じいちゃんとばあちゃんと、俺と…葵の、家だ。
「今度から、手紙書いてくから…な?夕飯食べようぜ」
まあ、もう「今度」とかたぶんないけどさ。
出かけるときは、お前も一緒だよ葵。
ようやく泣きやんだのか葵は顔をあげて、でもまだ泣きそうな目で。
それから小さな小さな声で俺に言った。
「もう、どこにも行かないでね」
葵が、俺を必要としてくれている。
俺も、葵を必要としている。
俺たち子どもは一人一人が不完全で、……いや、大人だってまだ不完全で。
だから、誰かの助けが必要なんだ。
見えない未来を進んでいくためには、不完全なままじゃ不安で、少しでも仲間を集めたがる。
うまく説明できないけれど、そういうこと。
俺は孤独だと思ってきた。
でも孤独なんかじゃない。
俺には、サトがいるし、葵がいる。
さっちゃんも、店長も、花田レイコも、……美佐も。
「どこにも行かないで」なんて、それはこっちのセリフなんだ。
葵なしの生活はもう考えられない。
離れないで。
ずっと、一緒にいてほしい。
それは別に恋人としてじゃなくてもいい。
ただ、一緒にいることがこんなにも安心で、心地いいんだから──穏やかな時間を、俺は失いたくないんだ。
まだ高校生のガキ。
働くこともできてない。
葵を幸せにすることなんて、できないかもしれない。
それでも。
一生懸命、守るから。