ハコイリムスメ。


「ごめん、ごめん葵」

泣きやませるためにぽんぽんと背中をさする。
ちとせくんが、と葵は言う。

「いなくなっちゃったかと思った…」
「なんないし」

だって、俺の家だよここ。
じいちゃんとばあちゃんと、俺と…葵の、家だ。

「今度から、手紙書いてくから…な?夕飯食べようぜ」


まあ、もう「今度」とかたぶんないけどさ。
出かけるときは、お前も一緒だよ葵。



ようやく泣きやんだのか葵は顔をあげて、でもまだ泣きそうな目で。
それから小さな小さな声で俺に言った。



「もう、どこにも行かないでね」











葵が、俺を必要としてくれている。
俺も、葵を必要としている。

俺たち子どもは一人一人が不完全で、……いや、大人だってまだ不完全で。
だから、誰かの助けが必要なんだ。
見えない未来を進んでいくためには、不完全なままじゃ不安で、少しでも仲間を集めたがる。




うまく説明できないけれど、そういうこと。




俺は孤独だと思ってきた。
でも孤独なんかじゃない。

俺には、サトがいるし、葵がいる。
さっちゃんも、店長も、花田レイコも、……美佐も。



「どこにも行かないで」なんて、それはこっちのセリフなんだ。
葵なしの生活はもう考えられない。

離れないで。
ずっと、一緒にいてほしい。

それは別に恋人としてじゃなくてもいい。
ただ、一緒にいることがこんなにも安心で、心地いいんだから──穏やかな時間を、俺は失いたくないんだ。

まだ高校生のガキ。
働くこともできてない。

葵を幸せにすることなんて、できないかもしれない。


それでも。


一生懸命、守るから。






< 353 / 465 >

この作品をシェア

pagetop