ハコイリムスメ。
『いいの。……あ、事務所から電話』
シンプルな着信音が聞こえた。
仕事用のケータイにだろう。
「…、また電話していい」
『もちろん、……ありがとう』
電話が切れた。
狂ってる。
みんなを笑顔にしてくれる花田レイコが、少しでも「イメージ」っていう柵からはみ出したら叱るのか?
それだけで、邪険にするのか?
テレビには街頭アンケートの映像。
『超予想外って感じでー。がっかりしたよねー』
『ホントホント!なんかねー。売れてるからって、って感じでー』
『……と、このように街からは困惑の声が上がってます』
ちくしょう、どいつもこいつも。
手のひらを返したように、声出しやがって。
なんて残酷なんだろう。
なんで、こんなことに。
くだらない、と思う心の底では、悔しいという大きな気持ちが出口を探して渦巻いていた。
「ちとせくんー、お風呂開いたよー」
後ろから葵の声。
俺は無言で立ちあがると、葵を見た。
俺が昔着ていた黒のTシャツに、グレーの半ズボン。
ちゃんと乾かされた長い髪が、クーラーの風で揺れている。
「…うん?どうかしたの?」
何も言わない俺を見ていた葵は、不思議そうに首をかしげた。
「……葵、ちょっといい?」
返事を待たないで、俺は葵を抱きしめた。
そしてそのまま、少しだけ泣いた。