ハコイリムスメ。
「本物なのかもな」
「あ?何が」
夏の日差しが強烈なベランダに小さな椅子を持ち出して、それに座って絵をかく葵。
俺たちはソファーに座って、ぼんやりと会話をした。
時折葵に日陰に入って休めよと忠告をしてみたけど、絵の世界に没頭している彼女にその言葉が届くことはなかった。
葵はただひたすらに、真っ白な画用紙にいろんな色の絵具を載せていく。
見る見るうちに、真っ白だった画用紙の上には海のような広大さを持つ、不思議な世界が広がっていった。
「西門礼次郎が言うんなら、葵ちゃんの絵の才能は本物なのかもなって言ってんだよ。文脈で分かれって」
「あ、ああ……」
俺は適当に生返事を返し、心の中でそんなことはわかっているんだと呟いた。
わかっている。
だから迷っているんだ。