ハコイリムスメ。

その夜、俺は久しぶりに湯を張った風呂に入った。
1人湯船につかりながら、どうするべきなのかとずっと考えていた。
いずれにしても、それは俺が決めることじゃない。葵がどうしたいのかって、それは本人に訊いてみなくちゃならないと思う。

天井に湯気がたまって、雫になって、ポチャンと音を立てて落ちた。
それで俺は風呂からあがることにした。




リビングに戻ると、葵は夕飯の洗い物をしているところだった。
最近、夕飯の片づけは「私がやるの」と言ってきかないんだ。

ガラステーブルの上は画材で散らかっていて、それに埋もれるように、葵のスケッチブックがあった。
漢字をだいぶ覚えて…というか下手したら俺よりもかけるかもしれない、音楽やテレビ、いろんなメディアを知り始め、世界を広げ始めた葵は、それに比例するかのようにどんどん絵の世界に没頭するようになった。


スケッチブックを何気なくパラパラめくると、次から次へカラフルな世界が現れた。
海、空、森、花畑、虹、どれも本物より本物らしくて、どれも息をのむほどにきれいで、俺は夢中になってページをめくった。


そして最後の1枚。
ページをめくったそこには、今までと真逆の絵があった。





「……葵」

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