ハコイリムスメ。
「葵、楽しかったか?」
「うん!油絵の具って面白いねえ」
葵がさっきまで描いていた絵はまだ油絵の具が乾いていなかったので、アトリエにおいてきていた。
その代りに、それよりひとまわり小さいサイズのキャンバスを受け取ってきた。
キャンバスと絵の具代をと差し出したお金は、礼次郎さんに受け取ってもらえなかった。
「とにかく、1週間しかないからなあ。忙しいぞー。明日は前にも行ったあの画材屋に行ってみなくちゃな」
けれど、さっきまで機嫌よく返ってきていた葵の声が、唐突になくなった。
俺はあれ、と不思議に思って、隣を見た。
葵がいなかったので、来た道を振り返る。
「どうしたー?葵ー?」
葵はある家を目の前に、ピタリと動きを止めていた。
傾きすぎた太陽は、さっきまでの鮮やかなオレンジとは違う、どこか怖くなるほど毒々しい赤にその家を染め上げていた。
「……葵?」
俺が側に寄って行くと、葵はカタカタと小さく震えながら、俺の服を強く握って離さなかった。あげく、うっすらと目に涙を浮かべ、嫌だ、嫌、そっちには行きたくないと小さく叫んだ。