ハコイリムスメ。
「それで?さっきのはマジか?」
「マジマジ。大マジだよ」
「……俺はやめといたほうがいい気がすんだけどなあ」
「わかってたことだから」
何か言いたげなサトを制して、俺は朝淹れて忘れていたせいですっかり冷めきってしまったコーヒーをすすった。
さすが高いだけあって冷めてもうまい。
「…まあお前がずっと考えてたって知ってるから、止めはしねえけどな」
「おうよ」
「でも葵ちゃんには一応言っとくべきじゃねえの?一応可能性的には高いんだろ?」
「言わない」
「だけど──」
「何度も言わせんなよ。葵には言わない。葵をこれ以上傷つけさせるようなことは俺はしない」
俺の断固とした様子にサトは首を振った。
好きにしろよ、というサインだった。
「ホント悪いな、いろいろ頼んで」
「頼まれねえよりは頼まれた方がいい。お前すぐ抱え込むからな」
しみじみと思った。
こいつ、なんていいダチなんだろう。
「俺も会場の手前までは一緒に行くから。でも、そのあとのことは任せる。一応さっちゃんにも連絡は取ってあるから、なんかあったらあの人頼って」
サトは小さく鼻をすすった。