ハコイリムスメ。
[私だって、真央のことを守りたかったの。私だって、真央の声が聞きたかったの。だけれどね、あの人はまともじゃない。真央の存在を消したがった]
[どうして]
自分の手が震えているのがわかった。
その箱を開けちゃいけない、そんな気がしてならなかった。
俺は自分が捨てられた理由でさえ、知ってしまうのではないかとひたすらに怖かった。
[横山直也は、あの人は、普通じゃない]
[だから、どう普通じゃないって言うんだ]
[真央の存在が、邪魔だって言うの]
葵の母親は大粒の涙を流していた。
[なぜ?]
[失敗だった、お前と出会ったことが、子供が生まれたことが、全部が誤算だった。あの人はいつも私にそう書いて突きつけてくるわ。お前なんか消えてしまえって]
[それはつまり、]
[リセットしたがっているの。離婚だなんて人生の恥、まして子供がいるなんて、人生においてお荷物すぎると思ったらしいわ。真央が生まれたことは、私とあの人しか知らない。役所にだって届け出ていないの。私は1人でここで真央を生んで、真央は外に出ることを許されなかった]
……夜泣きをすれば、真央の口にタオルを押し込んで、私はそれを止めるのだけど、振り払われて、転んだ拍子に大きな音がする。
そうするとあの人は今度は私を殴った。
繰り返される毎日を経て、葵は泣きもしなくなったらしい。
それどころか表情さえ変えず、ただ部屋の隅を見つめていた、と葵の母親は言った。