ハコイリムスメ。

[現に、あの人は真央の存在を知った2人を、……いいえ、正確には1人を、殺してしまったんだから]

[……は?]



瞬きをしていない目から、次々にあふれ出す透明な水。
それをぬぐいながら、葵の母親は俺に向かって懇願するように文字を書いた。



[義兄さんには本当に申し訳なかった……でもね、ちとせくん、わかって。私何度も警察に]




文頭の4文字にめが吸い寄せられ動かなくなった。
凝視したまま俺はたまらず立ち上がる。

「ちょっと待ってくれ!おにいさん、ってどういうことだ!」



大声で叫んだ。だけれど、母親の方は俺を見上げるだけで何もしない。
もどかしく感じながらペンをとった。



[それは俺の父親のことか?俺の父親は、あんたの姉貴と一緒に、俺を置いて、どこかに消えたんじゃないのか?]

[違うわ。千晶さんは、あなたのお父さんは]

[もういい、やめてくれ]





全身の力が抜けて、ガタン、と椅子に座った。






なんだ、それは。
そんな話、聞いてねえよ。




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