ハコイリムスメ。
日向は、「ひゅうが」とも読める。

そんなこと知ってるさ、いくらバカでも。




でも、「ひゅうが」よりも「ひなた」の方が、この少女に合う気がしたんだ。
「ひゅうが」って何となく寒そうなイメージ。
すみませんね、どうしても「氷河」と繋がっちゃうもので…音が似てるからかなあ。


「ひなた」だったら、今こうして笑ってるこの子にぴったりだって思うんだ。


春の日の光のような、温かな笑顔。
夏の日差しは暑苦しいだけだけどさ、春の光は柔らかで、そう、何もかもを穏やかにさせる気がするから。





 
「葵…」

少女はもう一度、自分の仮の名前をつぶやいた。

「ホントの名前、教える気になったらいって」
「ホントの名前…?」
「…まぁ、いんだけどさ、別に」


夜と比べれば、随分会話ができるようになった。

傷について訊きたかったけど、やめておいた。さっちゃんのとこに行ってからでも、遅くないだろうし。


そのまましばらく葵を見ていたら、ケータイの着信が鳴り響いた。


「っとぉ……」


この若干けたたましい音楽は、美佐だ。

ケータイを拾い上げながら、ちらりと画面を見やる。



そういや、学校休むこと言ってなかったなぁ、なんて、呑気にを思いながら、出た。

「はいよー」

『「はいよー」、じゃなぁい!!』



キィィイーン。

耳の中で美佐の大声が反響したような思いだった。


「美佐、声デカ過ぎ」


俺は顔をしかめた。


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