ハコイリムスメ。

そして「もし」は現実になる。
父親は死に、母親は壊れる。
俺は祖父母に育てられ、彼ら亡き後に逃げ出してきた葵を拾う。



巡り巡るのが運命か。



[死体はどうしたんだよ]

[私は知らないわ……聞けなかった。本当に本当に、私、どうしたらいいのかしら。もうわからないわ]


彼女は両手で顔をおおって泣いた。

自分の母親を見ているかのようで、それはとても違和感のあることで、つまり俺は動揺した。


[それで、姉さんはどうなったんだ?]

[名前を変えて入院しているわ。どこにいるかは教えてもらえないの。身の回りの世話はあの人がやってるのよ]

[そうか]



そうか、俺の母親は、生きていたのか。



俺の頭の中はおかしいくらいに冷静だった。そりゃあそうだろう、親だなんて言われたって名ばかりで、思い出なんかないし顔も声もなにもかも、少しだって思い出せないんだから。



[ちとせくん、大丈夫?]



なのにどうして、涙なんか出るんだよ。

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