ハコイリムスメ。
「本当に…?」
葵が俺を振り返って聞いた。
両手で、俺の右手をつかんで放そうとしない。
「本当に?二回目の春に、私を、迎えに来てくれる?」
「約束だ」
「ほんとに、ほんと?」
「ほんとに、ほんと。誓うよ」
「誰に?神様に?」
「俺は、神様なんか信じない」
俺の言葉に、葵はうつむいた。
オイオイ、そこでうつむくなって。こっち向けよ。
今からずげえキザなことを言うんだからさ。
「葵に。俺は、葵にだけ、誓うよ」
葵はパッと振り向いて、笑った。
「変なちとせくん」
そう言って、俺の頬をつねった。
「へ、変で悪かったな」
「ううん、嬉しい」
俺たちは少しだけ笑った。
いつの間にかシャワーの水音は止んでいた。
さっちゃんは出てこない。
おかしいなあと思いながら、リビングのドアの方を見た。
いつも俺を小馬鹿にする彼女の姿を見つけて、口元がゆるむ。
あの人も、たいがいバカなんだ。
俺は声を出さないように、と、自分の唇に人差し指をあてて葵に示してから、指をさした。
リビングのドアのガラスの部分から、さっちゃんの姿が見えた。
俺たちの話を聞いていたらしい彼女が、しゃがみこんで一緒に泣いていた。