ハコイリムスメ。
さよならは言わない
8月20日、朝日がカーテンから差し込むのを無視して俺が寝ていたら、葵に起こされた。
「ちとせくんおはよ!」
「葵……早いな……」
寝返りを打ってタオルケットに潜ろうとしたら、もう!と言って剥がされた。
「起きて起きて起きてーっ!」
「……はいはいはいはい!」
引っ張られるままに起き上がって、冷たく冷えたフローリングに足を下ろした。
「来て来て!」
「なに?」
「いいからー!」
促されるままにあとについてリビングに入ると、おいしそうなにおいがした。
ガラステーブルに目をやると、ちょっと不格好でちょっと焦げた、オムライスが3つ置かれていた。
それにサラダも。
連日泊まりっぱなしのさっちゃんが、新聞を読んでいた。
「え……」
「私が作ったの!」
「まじかよ!すげー!!葵すげー!!」
俺はテーブルに手をついて、まじまじとオムライスを見つめた。
「ちょっと形悪いけど……食べてくれる?」
「食う食う!」
「よかったわねーちとせ」
新聞をたたみながら言うさっちゃんに、ああ、と頷いて、3人で席についていただきますと声をそろえた。
3人一緒の、葵と一緒の食事は、これが最後。
葵は朝メシを済ませたら、施設の先生が運転してくる車で出発する。