ハコイリムスメ。
「うまい!」
「ほんとに?さっちゃんは?」
「おいしいわよ」
俺達の言葉に、葵は嬉しそうに頬を染めた。よかったあ、と安堵の言葉をこぼす。
いつか、俺が作ったあのオムライスによく似ていた。黄色いものに惹かれた彼女を思い出す。
そういえば「葵」の名前のもとになったあの黄色い花も、すっかりかれて、たくさんの種ができたんだ。
来年も、再来年も、その先にも、咲かせて見せる。
「何時に迎えにくるの?」
「10時」
さっちゃんの問に最後のひとくちを食べながら答える。
葵の部屋は、すっかり片付いてしまった。絵も、服も、施設の部屋に送ってしまったから。
最初からあったベッドと机と本棚だけが残されている。
「10時?あら、あと1時間もないの!」
「支度は終わってるから」
「じゃ、写真撮りましょうよ!せっかくだし」
さっちゃんが食べ終わった皿をシンクに置いて言った。
俺も賛成だった。
「カメラ!あるでしょうちとせ」
「あいよ」