ハコイリムスメ。


「あ、私もちとせくんにあげたいものがあるの」

「え?」

「ちょっと待っててね!」


葵はそう言うと、今はがらんどうのはずの葵の部屋だった場所に小走りに入って行った。


「なにかしらね?」

「さあ…」


見当もつかない。

数秒後、葵が大きな額縁を持って出てきた。


「あ、これ」

「そう、この間の絵!ちとせくんまだ見てなかったでしょう?」




じゃーんと言ってひっくり返された額の絵を見たとき、その絵があまりにあたたかで、やさしくて、綺麗で、不思議で、俺は声が出なくなった。





『…葵、何描くつもりなんだ?』

『うーんと、私の好きなもの』

『イチゴとか?』

『イチゴも描くし…まだないしょー』




何日か前の会話が思い起こされた。

そこに描かれていたのは、色鮮やかな世界だった。



抽象的に表現された、イチゴ、ひまわり、あの公園の噴水に、夜の月、いろんなものが入り乱れているのに、それはなぜか1つの世界として何の違和感もないものだった。

そして、真中に2つのシルエット。

写真で撮ったかのような空の模様の背の高い人間の形と、こちらも写真のように鮮明なひまわりの模様の背の低い人間の形。



「わかるかなあ、こっちがね、ちとせくんで、こっちが私なの」


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