ハコイリムスメ。
葵が額を左手で支えたまま、上から覗き込んで右手で指し示した。
「私のすきなもの!ね?」
葵は俺を見て笑った。
俺は差し出された絵を両手で受け取って、やっとのことで「ありがとう」と言った。
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下のロビーで見送りにきたサトと落ち合い、4人で車の到着を待っていた。
サトとさっちゃんは10時を過ぎても車が来ないもんだから、痺れを切らして外を見てくると言って今はいない。
俺たちはひとけのない静かなロビーのソファに2人並んで座っていた。
「2年なんて、あっという間だよね」
「うん、きっとすぐだ」
葵が俺の方を見てえへへ、と笑った。
俺はふと思い立って、自分の首にぶら下がっていた銀色のプレートの付いたネックレスを外し、葵に差し出した。
「やるよ」
「え、本当に?」
「なんつーか、約束の証拠、みたいな」
葵は手の中のそれを見つめてから、ありがとうと言った。
「つけてくれる?」
「おー。あっち向いて」
金具を首の後ろで止めてから、髪を持ち上げて鎖から抜いた。
さらりとした茶色のストレートヘア。
触れることはしばらく出来なくなる。
「……葵、さ」
「うん?」
「前に言ってたじゃん、マンガ見てさ、『キスの意味が分からない』って」
「うん」
「それは……今も?」
「うん」