ハコイリムスメ。
「くっそ、なんだよ!タイミング悪すぎだろ!」
「続きは2度目の春にお預けよー。さ、ちとせ、真央ちゃんのカバン持ってあげて」
「へいへい」
サトは真夏の太陽に目を細めて立っていた。
サトの側には白いワゴン車が一台止まっている。
俺は車に近づきすぎたら涙が出そうだとわかっていたから、途中で足を止めた。
葵も俺の考えていることがわかったのか、何も言わないでカバンを受け取る。
「お別れだ、葵」
俺がそう言うと、葵はちょっと呆れたように笑った。
「もう。葵って呼んだり真央って呼ばれたり、大変だよ」
「あ、ごめん。えーっとじゃあ…真央」
「はい」
「俺、本当に頑張るから、お前も勉強とかいろいろ、頑張れよ」
「あはは、お父さんみたい」
彼女の笑い声を聞いて、少しだけ安心した。
「……さよならは、言わないからな。ちょっとのあいだ、離れるだけだし」
「うん」
「それと」
「ん?」
「やっぱり、こっちは、2度目の春まで我慢できそーにねーから」
やられっぱなしってわけには、なあ?
いかないだろ?
俺は葵を強く抱きよせて、何か言おうとしたその口を、キスでふさいだ。