ハコイリムスメ。
だからってこっちは心の準備ができていない。
いきなりまた親と暮らすだなんて、調子が狂うし気恥ずかしい。
俺は主治医に頼んで、同居を始めるのを4月まで延ばしてもらうことにした。
そして、去年の4月。
俺とじいちゃんとばあちゃんの家、俺と真央の居場所に、母さんがやってきた。
向こうは俺とずっと一緒だったと思っているのだから、こっちがぎくしゃくしても仕方がないと割り切って、俺はごく自然に接するように努力した。
とはいえ、親と暮らした記憶なんか残ってないから、やっぱり最初はそれなりにリハビリが必要で、会話も、日常も、呼び方にさえいちいち気を使う始末だった。
「じゃー、行ってくる」
「今日、真央ちゃん迎えに行くんでしょう?皐月ちゃん呼んで、家族が増えるパーティーの準備しておくから!」
「いや、母さんは料理しちゃダメだって!」
「もう。出前頼んでおくから、それならいいでしょう」
「だめ。俺が作る」
「時間足りないんじゃないの?頑固ねえ、パパそっくり」
母さんは懐かしそうに眼を細めた。
きっと亡き父さんが浮かんでるんだろう。