ハコイリムスメ。
 

「はじめまして~!!あたし、ナカガワユカって言います!!中に、簡単な方の川に、由(よし)に、香るの香で中川由香!!中3です!!」
「はぁ…どーも」

女の子の勢いに流されて、気の抜けた挨拶をする俺。そのそばで、トオルがくすりと忍び笑いをしている。



「…コイツちとせさんのファンで」
「ふぁん…て、アイドルか俺は」

そして何故にそんな方面が…


「ええー!?ちとせさん知らないんですか!?俺たちの中学の中で、かなり有名人ですって!」
「…なんでだよ」


トオルは、親友の弟である以前に、後輩でもある。
トオルの今いる中学に、俺もサトも通ってた。
俺は電車通学だったけど。


「いろんな武勇伝が残ってるからですよ!!一番人気のある伝説は、そうだなあ…」
「球技大会で、全種目出場、優勝!」


なゆちゃんが嬉しそうに言う。
なんで君が嬉しそうなんですか?

…っていうか伝説とか、どんだけ表現オーバーなんだよ。



「ああ…そんなこともあったよね…」

そしてなんで俺のテンションは落ちて行くんだろう?

「マジかっけー!ありえないすよ!」
「あれはついてただけだろ…」


相手が極端に弱かったからさぁ…
しかも、クラスの奴らに超が付くほど強引にやらされたんだぜ、全種目。

負けたらなんだったか忘れちゃったけど、嫌ーな罰ゲームが待ってたような…。

なんなんだ、俺の人生。
いろいろと狂ってる気がする。

実行委員やってたサトはそんなクラスの連中の暴走を止めもしないで、爆笑してたし。

ひでえ親友。



「なんであんなに運動神経いんすか!?うわ、疑問!!」
「…さあ…DNAの関係とか?」

言われてみれば、通知表の中で体育だけが常に5だった。
他は2とか3。英語なんてひどい時は1。


それにしてもDNA、とか。笑っちゃうね、俺の口からこんな言葉が出てくる日が来るなんて。親の顔も知らないのに。

もしかしたら、そうだなあ…俺の親は超凄いスポーツ選手だった、とかね。


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