ハコイリムスメ。
「なんでもない…なんでも…」
葵は、まだ何も知らないんだ。
言葉も、感情も、動作も。
信号が三色だってことも、春の日差しの暖かさも、月の光の優しさも。
2年ぶりの涙が、俺の頬を冷たく濡らしながら流れていく。葵はそんな俺を不思議そうに見つめるだけだった。
葵の世界には、まだ何もないんだ。何も知らない、感情の表し方さえ分からない。
だから、どうした?
知らないのなら、分からないのなら、俺が、教えてやればいい。
俺が、そんなちっぽけな当たり前のこと以外も教えてやる。
葵の存在を認めなかったバカな親たちを、後悔させてやる。
俺が、もう俺みたいなやつを生み出させはしない。
葵を守るのは、葵を見つけ出した俺の役目だから。