スプリング×ラブ!
何の疑いもなく『春』という季節が大好きな春。

べつに自分の名前についているから好きだというわけではなくて、それにはある特別な、でも微かな思い出が関わっていたりする。



春がまだ幼稚園に通っていた頃、春の家族はこの町に引っ越してきた。
前の街が大好きだった春は、もちろん引っ越しを嫌がった。幼稚園の友達と離れたくない、この公園に来れなくなるのは嫌だ、諸々。

それでもとうとうその日は来てしまって、春は考えた。1人でこっそり家を抜けだして、大好きな公園、大きな桜の木のある『サクラ公園(と、春は呼んでいた)』にやってきた。

『そうだ、ハルだけここにのころう!このサクラの木のうえにすむの』

思い立ったら即行動!が今も昔もモットーな春は、早速木に登ろうと必死で幹に手をかけた。




(『あとちょっと、あとちょっとであのエダに手がとどくのに』)

当時、幼稚園の女の子たちの中で1番背の高かった春でも、その一番下の枝までの距離はあまりに長かった。
届くはずもなく、仮に届いたとしても、その先登る術を知らない。

他所行き用の桜色のワンピースを、ささくれた幹の皮にひっかけて破きそうになったのをきっかけに、幼い春はそっと木から離れた。

そして、その木の正面のベンチに座って、泣いた。
大泣きした。

涙の波が収まると木を睨んだ。
また涙がたまってくる。

泣いた。
大泣きした。




しばらくそうしていると、お腹がすいてしまって、余計に泣いた。




< 16 / 119 >

この作品をシェア

pagetop