スプリング×ラブ!
帰りたくないし、木に登りたいし、お腹が空いたし、町を出て行くのは嫌だし。
幼い頭で一生懸命考えながら泣いた。

すると、足音が近づいてきた。

お父さんかな、お母さんかな。
そう思って顔をあげると、自分と同じくらいの年齢であろう子が、心配そうに自分を見つめていた。

『どうしたの?』



春は高校3年生になろとしている今でも、はっきりとその子の顔を思い出せる。



中性的な顔立ちで、だから男の子なのか女の子なのかは最初はよくわからなかった。
活発そうな大きな目、風にそよぐ長めのショートカットの栗色の髪。




『まいご?』

トコトコと近寄ってきて、春の隣に座った。
見たことのない子だった。

『ち、ちがうよ…』
『へえ?おなかすいたの?』
『…それは、ちょっと。ちょっとだけ』
『じゃあ、ボクのアメあげるよ』

その一人称でこの子が男の子だとわかった。
男の子はポケットから次々にアメを取り出した。
魔法みたい、と子供心に春は思った。

『イチゴとサクランボとメロンとブドウどれがいいー?』
『さ、さくらんぼ』
『わーボクが1ばんすきなやつ!…まあいいや、はいっ。もう泣かないでね』

春にアメを手渡しながら、その男の子は大きな笑顔を見せた。
春はなんで泣いていたのかよくわからなくなって、泣いているのが損な気がして、泣くのをやめてつられて笑った。




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