スプリング×ラブ!
『ボクさいきん「おひっこし」してきたの。ねえ、こんどいっしょにあそぼーよ』
『ハルはね、きょう「おひっこし」するの。となりのまちに、いくんだって』

男の子はメロンのアメをなめながら、そっかあ、さみしいね、と言った。
彼はまだ地面に届かない足をぶらーんぶらーんと前後に振った。春も真似してぶらーんぶらーんと足を動かした。

『じゃあさ、』

男の子はピョン、と地面に勢いよく下りると、二カッと笑った。

『おおきくなって、ひとりでここまでこれるようになったら、あそぼーよ』

春はすぐにいいよっと言って笑った。

『ねえねえ、なまえは?』
『ハルだよ!はるなつあきふゆのハル。やまぐちはる』
『ハルちゃんかー。じゃあ、じゃあさ、おおきくなったらはるにこのきのしたにきてよ!いっしょに木にものぼろーっ』
『みてたの!?』

彼はあははと楽しそうに笑うだけで答えてはくれなかった。




しばらくしてお父さんとお母さんが探しにきた。
春は桜の木にさよならしてたの、と言って、素直にごめんなさいと謝った。

『ばいばい!』

手を振る彼に手を振り返す。

『あれ?なまえはー!』

大きな声で訊くと、男の子は振り返って、確かに、確かに名前を口にしたのだ。
ありがちな物語と同じように、春はその子の名前を覚えてはいなかった。



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