スプリング×ラブ!
「……違くて、ただ訊いただけ」

(「こんなにちゃんと目が合ったの、はじめてかもなぁ」)

春は透夜の目を見て、ふとそんなことを思った。黒くて、涙で濡れている。これは花粉症のせいなんだよなぁ、お兄ちゃんよりやっぱ重症かぁ───………



「………や、だから……座れば」

目をそらしながら彼はカバンのヒモから手を離した。春はホントに!と笑ったあと、薬の効果だね!と言った。

「……はい?」
「だって1回もクシャミしないし!」
「……すげー脈絡ねぇー……」
「ミャクラクってなに?」
「……バカだね」
「ええ!?」



一瞬先のことでさえ、どんな言葉が飛び出してくるか、どんな行動をとるのか、全く予想がつかない。Aと言うと思えばB、Bだと思えばA。AかBだなと思うと、まさかのC。

マンガを読んでいたと思ったら、使い込まれた机に突っ伏して眠っていた春を見て、透夜はやわらかく笑った。
『春』という季節にこれだけ穏やかな気持ちになったのは、いつ以来だろうか。



市販の薬、信用なんかしてなかった。
風邪薬だって、頭痛薬だって、市販の薬はみんな効いた試しがなかったのだ。
春にもらわなければ、今日も辛かったはず。
でも、お陰で病院に行かなくて済みそうだった。「今日も酷かったら病院いきなさいよ」と母親に言われていた透夜は、心底ほっとしていた。




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