スプリング×ラブ!
「夏香~うわーん」
「はいはい。暗くなってきたから帰ろうね」

夏香はポンポンと春の頭を撫でてから、透夜に向かって苦笑した。
透夜も笑う。

「…………あれ、てか坂井くんまだいたんだね」

春が思い出したように呟くので、透夜はすこし癪にさわって、

「……いたんだねもなにも、アンタが今肩に掛けてるブレザー誰のだと思ってんの」

と春の頬を左右に思い切り引っ張ってやった。

「いひゃい!いひゃいってば!」
「……変な顔」

そんな2人を見ていた夏香も笑う。ひどいよ2人して!と春は大袈裟に泣き真似をした。




「ブレザーありがとー坂井くん」

ふて腐れて棒読みで言う春が差し出したそれを「ん」と呟いて受けとると、じゃあ俺帰るから、と準備室を出た透夜。

「ハイハイまた明日!」

子供のようにイーッと顔を歪ませて見送ると、透夜は振り返って、変な顔、とまた言った。



「あ!夏香、私ブレザー教室だった!」
「取りに行こ。ほら、ケイタイ持って」

夏香は机の上に置かれたままになっていた春のケイタイを渡した。春はやば、またおいて帰るとこだったじゃん私!と、あわててポケットに突っ込んだ。



階段をしたまでおりて、下駄箱でローファーに履き替える。透夜の前には、暮れかかった春が満ちていた。
マスクを外していたことに気付いて、一体いつ取ったんだろうと首をかしげながら、薬を信じてそのまま外に出た。

クシャミは出なかった。

幸せな気持ちに浸りながら、彼は家路についた。




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