【短】溺愛ショコラ
彼は至って何でもないような顔で、日常会話でもしているような口ぶりで、淡々と私に別れ話を告げていく。
『だから、別れてくれ。』
「っ、」
『頭の良い茉子は、分かってくれるよな?』
私がこんなにショックを受けていて、モラルのカケラもなかった彼に一言の暴言も言えないのに、彼は笑顔で茉子はいい子だからと言ってくる。
この時初めて、私は彼にとって都合のいい女だったんだと理解した。
彼は始めから私には本気じゃなかったんだ。
いつでも関係を清算できる都合のいい女が私だった。
本気の恋をしていると思っていたのは私だけ。
全部、私だけの独り相撲とわかった時、全身の力が抜けていった。
『茉子?』
「ん、分か…ったよ。」
『そっか。良かった。』
そう言って、彼は安堵の笑顔を浮かべた。
良くない。私は良くないよ。
大好きだった彼の笑顔に、こんなに嫌悪感を抱くなんて、1時間前の私には考えられなかったような事実。
『…俺はこれから彼女と待ち合わせしてるから。じゃぁな。』
「っ…サヨナラ」
私の言葉も聞かずに、走って公園を出ていった彼。
「バカ圭司ぃ…っ」
私の涙を含んだ声は、静寂の公園に響いただけで、誰の下にも届かなかった。