【短】溺愛ショコラ
「…どうしてですか…?」
『っ、』
私の小さな声に、私の頬に触れようとしていた先生の手が止まった。
触らないでほしい、と思った。
「私相手だと…っ、あんな酷いことしても大丈夫だと、思ったんですか…?彼を奪っても、私だから…っ、私だから何も言わないだろうと、気弱な私なら謝れば許してくれるだろうとでも思ったんですか!」
酷い。酷すぎる。
いきなり大きな声を発した私に驚いたのか、目を見開いて私を見つめる先生を、キッと睨み上げる。
こんなにも人を憎いと思ったのは、初めてのことだった。
『茉子ちゃん…?』
「茉子なんて、呼ばないでくださいッ!」
『っ!?』
私が完全に先生を拒絶した瞬間だった。
私は、彼氏を奪った人をあっさり許せるほど、寛大な心をもってるわけじゃない。
「私から彼を奪っておいて、私に平気でいられる先生なんて、嫌いです!」
『!』
「どうぞ、末永く圭司とお幸せにッ!」
せめてもの私の良心だった。
祝福なんてできない。
でも、その幸せは、私の不幸の上に成り立っているということを、先生に知ってもらいたかった。