オオカミと少女
「…もう、あなたが来てから4年も経つのね。
あなた、ここに来たときいくつだった?」
「…14歳よ。おばさん。」
ナターシャの表情が少し曇ったことに、ミストは気づいていた。
「あの夜のことは忘れないわ。」
ミストはどこか遠いところを見るように目を細めた。
「まだ、私が結婚してこの家を出る前だったわね。
大雨の中あなたが走って来て、森に1番近かったこの店に助けを求めて来た。
私とレミットが急いで向かったけど、お兄さんはもう…。
森の中に両親を亡くした歳の離れた兄弟が暮らしてるって言うのは聞いたことがあったし、お兄さんが街に買い物に来てるのも見たことがあった。
けどあなたを見たのは初めてだったわ。」
「そりゃそうよ。
私も森を出たのは初めてだったもの。」
ナターシャは手を止めずに言った。
「2人にはとても感謝してるわ。
兄さんのお墓を作ってくれて、私に仕事も与えてくれた。
一緒に住んでいいとまで言ってくれた。
命の恩人よ。」
「いいのよ。
私も嫁ぐことが決まっていたから、レミットとも寂しくなるねって言ってたところだったの。
それに、私達も幼い頃に両親を亡くして2人でこの店を守ってきたから、あなたの気持ちは分かるつもりよ。」
ミストはお腹に手をあてて言った。
「この子には、一生味わって欲しくない気持ちだけどね。」
ナターシャがそれを見て少し笑って見せたとき、カランカラン…という音が響いた。