オオカミと少女
ナターシャはこの青年が少し怖いと思った。
それは彼の濃い茶色の髪の、前髪が長くて右目しか見えないからか。
それとも髪の隙間から覗く右目が細く、真っ赤なせいか。
「…この辺りではあまり見ない目の色ですね。どちらからいらっしゃったんですか?」
「こっちに来てからよくそう聞かれるよ。この街の人は部外者を嫌うのか?」
その低い声にナターシャは首を振った。
「むしろ、歓迎してくれるところです。
私もこの街の生まれではありませんから。」
2人の間にしばらく沈黙が続いた。
店の奥からはパンが焼けるいい匂いがしてくる。
もうすぐ昼時なため、今レミットが焼いているこのパンが焼きあがる頃には店もお客でいっぱいになるだろう。
「…いい店だな。
パン屋はこの辺りでは少ないし、繁盛するだろう。」
ナターシャは少し驚いた。
怖い印象を受けていたから、向こうから話しかけてくるとは思わなかったのだ。