オオカミと少女
「おかげさまで…」
「お前、ナーちゃんと呼ばれていたな。ナーという名前か?」
青年がふっと笑った。
ナターシャは胸がとくん、と音をたてたのに驚いて胸に手をあてた。
(笑った…)
青年の笑顔は優しかった。
くしゃっと笑うため元々細い目が一段と細くなる。
「ナターシャっていいます。」
ナターシャは後ろで1つに束ねた三つ編みに無意識のうちに手をのばしていた。
それは緊張したときのナターシャの癖だった。
「あ、あの。あなたのお名前は…?」
「俺はイーサン。」
「イーサン…」
ナターシャは髪から手を離すとニコッと笑った。
ナターシャにはこの胸の音が何なのか分からなかった。
イーサンといると気持ちが踊るような、でもちょっと緊張するような、そんな不思議な気持ちがなぜか心地よかった。
「レミットおばさんが焼くパンはとても美味しいですよ。
私も手伝ったりしますけど、あんなに上手く焼けません。」
「ナターシャも焼くのか?
どれか、焼いたパンはあるか?」
イーサンは少し驚いたような表情を見せると店の中を見渡した。
「えーと…それとかもそうですね。」
そんな話をしているうちに、奥が静かになったかと思うと両手にトレーを持った女性が店に入ってきた。
その女性はミストを少し太らせたような人で、顔はそっくりだ。