オオカミと少女

それからイーサンは毎日のように店を訪れるようになった。



それも昼時の少し前、レミットが昼に備えてパンを焼き始める少し前にやって来るのだ。



レミットもすっかりイーサンに親しみを覚え、ナターシャもイーサンが来る時間が毎日待ち遠しかった。



今日も誰もお客がいない時間にカランカラン…という音が店内に響く。



「イーサン、いらっしゃい!」



「ああ。」



イーサンは目を細めて笑った。



「おお、イーサンか。いらっしゃい。
じゃあアタシはもうパンを焼き始める時間なんだね。」



レジの前に座ってナターシャと話していたレミットは立ち上がると店の奥に入って行った。



「今日もありがとう。」



「いや、来たいから来ただけ。」



イーサンは店内にある椅子を引っ張って来てレジのすぐ隣に座った。



ナターシャも、レミットが座っていた椅子に座る。



この体制でレミットがパンを焼き上げるのを待つのが2人の習慣になっていた。



2人は毎日他愛もない話しをしながらパンを待つ。



そして店が混んでくると、イーサンはその焼き上がったパンと何かもう1つを買って去って行くのだ。



「寒くなって来たな。」



「そうね。
もうコートなしじゃ外に行けない。」



ナターシャが頬杖をついてため息をついた。



「冬は嫌いだな。」



「どうして?俺は雪が好きだから、冬は好きだ。」



「うん…。雪は綺麗なんだけどね。」



ナターシャはサイオのことを思い出していた。



サイオが闇の中に倒れている。



あの時暖炉の炎はくすぶり、部屋の中は寒かった。






< 17 / 53 >

この作品をシェア

pagetop