オオカミと少女
それからイーサンは毎日のように店を訪れるようになった。
それも昼時の少し前、レミットが昼に備えてパンを焼き始める少し前にやって来るのだ。
レミットもすっかりイーサンに親しみを覚え、ナターシャもイーサンが来る時間が毎日待ち遠しかった。
今日も誰もお客がいない時間にカランカラン…という音が店内に響く。
「イーサン、いらっしゃい!」
「ああ。」
イーサンは目を細めて笑った。
「おお、イーサンか。いらっしゃい。
じゃあアタシはもうパンを焼き始める時間なんだね。」
レジの前に座ってナターシャと話していたレミットは立ち上がると店の奥に入って行った。
「今日もありがとう。」
「いや、来たいから来ただけ。」
イーサンは店内にある椅子を引っ張って来てレジのすぐ隣に座った。
ナターシャも、レミットが座っていた椅子に座る。
この体制でレミットがパンを焼き上げるのを待つのが2人の習慣になっていた。
2人は毎日他愛もない話しをしながらパンを待つ。
そして店が混んでくると、イーサンはその焼き上がったパンと何かもう1つを買って去って行くのだ。
「寒くなって来たな。」
「そうね。
もうコートなしじゃ外に行けない。」
ナターシャが頬杖をついてため息をついた。
「冬は嫌いだな。」
「どうして?俺は雪が好きだから、冬は好きだ。」
「うん…。雪は綺麗なんだけどね。」
ナターシャはサイオのことを思い出していた。
サイオが闇の中に倒れている。
あの時暖炉の炎はくすぶり、部屋の中は寒かった。