オオカミと少女

「…じゃあ、10年も1人で?」



「ああ。街を転々とな。ここに来たのは4年ぐらい前だ。ここが1番長い。」



「はーい。出来たよ、イーサン!」



イーサンがそう言ったとき、レミットがトレーを両手に店の奥から出てきた。



「今日はどれにする?これなんかは動物の形をしてて、作るのに苦労した。
こちらは新作のメロンパンだ!」



腰に手をあてて力説するレミットの隣で、ナターシャはクスクス笑った。



「動物なんて、イーサンは子供じゃないんだから。
ねえ、イーサン……どうかした?」



ナターシャの問いかけにもイーサンは何も答えなかった。



その細い目はじっと動物の形をしたパンを見つめている。



それはウサギと羊の形をしたパンだった。



「…イーサン?」



「ん?」



イーサンはナターシャの呼びかけに初めて顔を上げて首を傾げた。



「どうかしたかい?イーサン。」



レミットも心配そうにイーサンを見たが、本人は何事もなかったかのように首を振った。



「…じゃあ、メロンパンの方をもらう。
後は、これ。」



レジのすぐ横にあった5個入りのパンを指差してイーサンはそう言った。






< 19 / 53 >

この作品をシェア

pagetop