オオカミと少女
「…じゃあ、10年も1人で?」
「ああ。街を転々とな。ここに来たのは4年ぐらい前だ。ここが1番長い。」
「はーい。出来たよ、イーサン!」
イーサンがそう言ったとき、レミットがトレーを両手に店の奥から出てきた。
「今日はどれにする?これなんかは動物の形をしてて、作るのに苦労した。
こちらは新作のメロンパンだ!」
腰に手をあてて力説するレミットの隣で、ナターシャはクスクス笑った。
「動物なんて、イーサンは子供じゃないんだから。
ねえ、イーサン……どうかした?」
ナターシャの問いかけにもイーサンは何も答えなかった。
その細い目はじっと動物の形をしたパンを見つめている。
それはウサギと羊の形をしたパンだった。
「…イーサン?」
「ん?」
イーサンはナターシャの呼びかけに初めて顔を上げて首を傾げた。
「どうかしたかい?イーサン。」
レミットも心配そうにイーサンを見たが、本人は何事もなかったかのように首を振った。
「…じゃあ、メロンパンの方をもらう。
後は、これ。」
レジのすぐ横にあった5個入りのパンを指差してイーサンはそう言った。