オオカミと少女
イーサンの正体
「綺麗だね!」
街の高台から海を見下ろし、ナターシャは目を輝かせた。
この街自体急な斜面に立っているので、こういう高台はそこかしこにあった。
「俺の、お気に入りの場所。」
イーサンが少し笑い、目が細くなる。
「辛い時とかは、ここに来て海を見てる。明るいうちに来たのは初めてだけど。」
「辛い時って、例えばどんな?」
ナターシャは不安そうにイーサンを見上げた。
ナターシャは、イーサンに苦しんで欲しくないと思った。
イーサンは時々、どこか遠くを見るように寂しそうな表情を見せることがあった。
それを共有したいとさえ思った。
「…人に認めてもらえないとき、かな。」
イーサンの顔は今までに見たことがないほど悲しげだった。
「まあそんなこと常だけど。」
「そんなことない!」
ナターシャの大きな声に、イーサンは驚いたようだった。
だがナターシャはそんなことお構いなしにイーサンの手を取った。
「私はイーサンのこと認めてる!大事な、大事なお友達として!」
イーサンは目を見開いてナターシャを見ていたが、その澄んだ緑色の目を見てふっと笑った。
「お友達、か。」