オオカミと少女
「いらっしゃいませ!」
「ありがとうございました!」
「以上でよろしかったでしょうか?」
「はーい、レミットおばさんちょっと待ってね!」
昼時が過ぎたとはいえ、店の中は大忙しだった。
ナターシャはいつものように笑顔だったのだが、レミットはその顔が日に日に暗くなっていることを知っていた。
「…傷つけたら承知しないと言ったろうに。」
追加のパンを焼きながらナターシャのレジを打つ後ろ姿を見て、レミットはため息をついた。
「はぁぁぁあ…。疲れたぁ!」
ピークが過ぎて誰もいなくなった時を狙い、ナターシャはレジの前に座り込んだ。
「レミットおばさん、2週間前はこんなときに1時間もお休みをもらってごめんなさい。」
顔も上げずに静かにそう言うナターシャの頭を撫で、レミットはいつもイーサンが座っている椅子に座った。
「いいんだよ。
…にしても、イーサンここ2週間来てないね。どうしたのかしら。」
レミットはさりげなく聞いたつもりだったのだが、ナターシャはピタッと動きを止めるとまた深いため息をついた。