オオカミと少女
こんな姿、なりたくてなったわけじゃない。
満月の近い夜になると、晴れていようが雨が降っていようが関係なく体が熱くなる。
その体を冷やそうと建物の外に出る度、この姿になってしまう。
屋外に出ないように自分を抑えようとはするものの、意識が弱っていたりすると無意識のうちに出てしまっているのだ。
それほど体の熱さは耐え難く、辛いものだった。
一度姿が変わってしまうと、月が沈むまで元には戻れない。
満月の日は熱さが最高潮に達するため、イーサンは自分を傷つけ歩けなくすることでオオカミにならずに済むようにしていた。
足を大怪我していたのはそれが理由で、身体中傷だらけだったのは前の街で殺されないように逃げまどったからだ。
しかし今日はナターシャに会ったことで気も弱っていた。
(会う、べきじゃなかった…)
ただ、会いたかっただけなのに。
満月が近いから会ってはいけないと、自分を抑えていたのに。
気づけばイーサンはあのパン屋が見える角にいたのだ。