オオカミと少女
そのとき、ナターシャは物音に気づいてマッチを持ったまま振り帰った。
そこには小さなろうそくが一本立っただけのランプを持った青年が立っていた。
ナターシャと同じ真っ黒の短い髪に緑色の目の優しそうな青年だ。
しかし青年は痩せていてその顔は青白かった。
「お帰り、ナターシャ。
薬草を採って来いなんて頼んで悪かった。」
「何言ってるのサイオ兄さん。薬草なんていつも採りに行ってるじゃない!」
火をつけてマッチを棚に戻したナターシャは笑顔でサイオの手を握った。
暖炉に火が灯ったおかげで部屋はすぐ明るくなり、温かみが出てきた。
「すぐご飯にするわ。今日はシチューよ!
そのあとは薬を飲んで寝てちょうだい。
せっかく川の向こうまで薬草を採りに行ったのよ。」
「ナターシャ。
雨が降るって分かっていながら川の向こうまで行くなんて君は愚か者だよ。
増水して渡れなくなる。」
「降りだしてすぐに渡ったからまだ橋も沈んでなかったわ。
兄さんは心配しすぎよ。」
ナターシャはくすりと笑うとサイオを椅子に座らせてランプの火を消した。
「ナターシャには寂しくて辛い思いばかりさせるね。」
「そう思うなら早く病気を治して?」
ナターシャは笑みを絶やさない。
「兄さんの病気が治るのが1番の解決方法よ。」
「分かってる。」