オオカミと少女
「6歳?兄さん、私と兄さんは7歳違いよ?」
「…やっぱり覚えてなかったか。」
サイオはため息をつくと、小さいナターシャに合わせてしゃがんだ。
「今日はナターシャの誕生日じゃないか。ナターシャの方が僕より1ヶ月早いから、その間だけ6歳違いになるんだよ。」
それを聞いてナターシャの表情がぱあっと輝いた。
「そうだ、忘れてた!」
「そんなことだろうと思った。
さて、ナターシャ。
君は何歳になりましたか?」
ナターシャはニコッと笑ってサイオに抱きついた。
「14歳!」
「うん。あいにくの雨だけど、今年も盛大に祝おう。」
サイオは立ち上がり、ナターシャはその手を掴んで奥の部屋から元の場所に戻った。
「ねえ、兄さん!…兄さん?」
ナターシャは笑顔でサイオの顔を見上げたのだが、サイオは呼ばれてもナターシャを見ようとはしなかった。
その緑色の目は見開かれ、玄関の方を向いている。
「ど、どうしたの…?」
そう呟きながら兄の視線を辿って玄関を見たナターシャは、次の瞬間同じように固まることになった。
そこには、大きなオオカミがいた。
真っ赤な細い目をさらに細めて唸り、濃い茶色の毛は逆立っている。
「グルルルルル……」
「に、に、兄さん…オオカミ…」
ナターシャは恐怖のあまりサイオの上着の袖を掴んだ。
2人は小さい頃、散歩に出かけたときに遠くの方にオオカミを見たことはあった。
しかしこんな距離で、しかもこちらを見て唸り声をあげているオオカミは初めてだった。